
建設業でも、建設工事の請負契約は電磁的措置(電子契約)で締結可能です。根拠は建設業法第19条の「書面交付」に代えて一定要件を満たす情報通信技術の利用を認める規定と、その具体化である国土交通省の新ガイドライン(令和7年9月30日付)です。ガイドラインは、見読性・原本性・本人性の3要件や事前承諾の取り方、利用できる手段を体系的に示しています。
このガイドラインは、電子署名の方式も明確化しました。すなわち
- 当事者署名型(ローカル署名)
- 当事者署名型(リモート署名)
- 事業者署名型(立会人型)
の3つです。従来曖昧だった立会人型の適法な位置づけが整理され、実務が進めやすくなりました。本記事では、DX推進アドバイザーでもある行政書士が各方式ごとの特徴と現実的に運用可能な方法についてできるだけわかりやすく解説します。
なぜ“立会人型”が現実的なのか
1)相手先に電子証明書を要求しなくてよい
当事者署名型は、原則として相手方自身の電子証明書と署名運用(ローカル/リモート)を要します。説明・取得(法務局にて電子証明書の発行申請をしなければならず、費用もかかる)・管理を含めハードルが上がり、全ての下請・協力会社に同水準を求めるのは現場運用上困難です。ガイドラインでも当事者署名型と立会人型を区別しており、立会人型はサービス事業者の署名基盤を利用するため、相手に証明書準備を強要しません。
2)“メールが受け取れる”なら始められる
立会人型は、相手方は受信メールのリンクから内容を確認・承諾するだけ。サービス側の本人確認・多要素認証・タイムスタンプで本人性と原本性を担保できます。ITリテラシーが十分でない相手にも、各社の受信者向けガイドでスムーズに案内できます。
3)公共発注でも採用実績が進む
自治体や官公庁の導入実績が伸びており、特にクラウドサインとGMOサインは公共分野の事例・支援体制が豊富。公共工事に関わる事業者は、取引先の運用に合わせておくメリットが大きいと言えます。
どのサービスを選ぶ?(建設業の実務目線)
- 第一候補:クラウドサイン
自治体採用シェアや共同調達の実績が多く、立会人型の適法性に関する政府回答など公共向けのノウハウが豊富。公共側の運用に触れる機会がある建設業者に相性◎。 - 第二候補:GMOサイン
自治体での導入・運用事例が広く、2要素認証や認定タイムスタンプを含む運用モデルが定着。地方圏でも広く採用が進展。
(DocuSign、Adobe Acrobat Sign、WAN-Signなども一般に利用されていますが、公共工事、自治体と取引の多い建設業では上記2社が“慣れ”の観点で無難です。)
低コストで“まず回す”運用のコツ
電子契約=印紙代ゼロの効果はあるものの、請負金額が小さかったり契約件数が少ない事業者では「月額基本料がネック」という声も現実です。
1)無料枠/低料プランから始める
クラウドサインやGMOサインは、無料または小規模プランでの試行が可能。最初は発注書・請書や軽微な覚書など“通数が多いが低リスク”な書類から回して、社内外の慣れを作ります。※各社の最新プランは導入ページや自治体向け資料を確認してください。
2)ガイドライン適合の“3要件”を運用に落とす
- 見読性:誰でもPCやスマホでのPDFファイルで見れることを明示(例:閲覧ソフトの条件を案内)。
- 原本性:タイムスタンプ付与や改ざん検知の説明を社内標準に。
- 本人性:2要素認証や承諾プロセスのログを必須化。
3)相手方の“事前承諾”をテンプレ化
契約前に、利用するサービス名・記録形式(PDF等)・署名/タイムスタンプ方式を相手に示し、書面または電磁的方法で承諾取得。発注書面や見積依頼メールの定型に1行差し込むと運用時の手間が省けます。
4)公共工事の実務に合わせた“説明資料”を活用
自治体が公開する受信者向けガイドは、そのまま相手案内に転用しやすい良資料。受信メール→画面確認→承諾の流れを画像付きで示すと現場の抵抗感が大幅に下がります。
「当事者署名型」を選ぶべきケースは?
- 高額・高リスクの個別契約で、本人の電子証明書による推定効(電子署名法3条)を最大限に活かしたいとき。
- 取引先のITレベルが高く、ローカル署名/リモート署名のインフラがすでに整っているとき。
ただ、建設業の裾野の広さ(下請多段階・地域分散)を踏まえると、まずは立会人型での普及→要所のみ当事者署名型という“合せ技”が現実的です。
失敗しない“社内ルール”の骨子(ひな型)
- 対象文書の範囲と優先順位(注文書/請書→工事請負契約→覚書 など)
- 事前承諾の取得手順と記録媒体(メール・クラウド上の同意ログ)
- 本人性確保の手段(2要素認証の既定、代理権の扱い)
- 原本性確保(タイムスタンプの必須化、検証手順)
- 保存・検索の方法(案件ID・工事番号での命名規則)
- 紙運用への例外移行ルール(印紙税の判断・紙原本保管)
——すべて国交省ガイドラインの3要件+事前承諾に結び付きます。
最後に:まず“1本”電子で締結してみませんか?
「うちは件数が少ない」「説明が面倒」——そんな声はよく伺います。ですが、立会人型なら「相手はメールが受け取れればOK」。印紙税の負担は原則ゼロで、郵送・押印・保管の手間が消えます。公共発注の現場も電子契約へ舵を切る中、慣れておくこと自体が取引コストの削減です。
当グループでは、現状ヒアリング→ツール選定→運用ルールの策定(事前承諾文面・命名規則・保存体制)→社内外の周知資料まで伴走支援します。まずは無料枠運用の設計から“初回の1本”を一緒に作りませんか。お問い合わせはこのページ下部のフォームからお気軽にどうぞ。



