値上げが難しい時こそ、制度を使って利益を守る

1. 価格転嫁だけに頼る経営は、実はリスクが高い
ここまでの回で、価格転嫁の重要性について繰り返しお伝えしてきました。しかし実務の現場では、
- 発注者の立場が圧倒的に強い
- 市場環境的に単価を上げにくい
- 一気に条件を変えると仕事が切れる不安がある
といった理由から、「理屈は分かるが、今すぐ全面的な価格転嫁は厳しい」という会社が多いのも事実です。そこで重要になるのが、値上げ以外の手段で、実質的に利益を守る発想です。補助金・助成金は、その代表例です。
2. 補助金は「儲けるため」ではなく「疲弊しないため」に使う
補助金というと、「積極的な投資をする会社向け」「成長企業が使うもの」というイメージを持たれがちです。しかし、設備系の建設工事業者や機械商社や代理店等の販売会社にとって重要なのは、
利益を増やすことより、これ以上、社内が疲弊しない状態を作ること
です。補助金は、
- 人を増やさずに回す
- 属人化を減らす
- 管理負担を軽くする
といった「守りの投資」のために活用することもできます。
3. IT導入補助金は「管理部門の負担軽減」に直結する
多くの建設会社でボトルネックになっているのが、現場ではなく施工管理も含めた管理部門です。
- 見積・請求・原価管理がバラバラ
- 工事ごとの収支が見えにくい
- ベテラン社員に業務が集中している
こうした状態では、価格交渉以前に「正しい判断材料」がそろいません。IT導入補助金は、
- 工事台帳・原価管理システム
- 見積・請求の一元管理
- 勤怠・労務管理の効率化
といった分野に使うことで、人件費を増やさずに管理精度を上げることができます。これは、長期的に見れば「価格転嫁が通る前提条件(経営状況・データの見える化)」をに役立つ投資でもあります。
4. キャリアアップ助成金は「人材流出対策」として考える
建設業では採用難が続いており、人が辞めるたびに現場も管理も不安定になります。キャリアアップ助成金は、
- 有期雇用から正社員への転換
- 処遇改善を伴う制度整備
を行った場合に支給される制度です。単なる助成金収入として見るのではなく、
- 教育した人材を長く使える
- 採用コスト・引継ぎコストを抑えられる
という経営の安定装置として捉えることが重要です。人が定着すれば、無理な値引き受注や、無理な対応も減らせます。
5. DXは「現場を楽にする話」ではない
DXという言葉に、「現場にタブレットを持たせる話」という印象を持つ方も多いかもしれません。しかし、経営視点でのDXとは、
- 赤字案件を早く見つける
- 工事ごとの差を把握する
- 無理な受注を防ぐ
ための判断材料を数値データで見える化するための仕組みです。数字が見えるようになると、価格交渉でも「感覚論」ではなく「事実ベースの話」ができるようになります。
6. 補助金申請で本当に問われていること
補助金申請で大切なのは、「難しい言葉を書くこと」ではありません。
- なぜ今、その投資が必要なのか
- 現状、何が問題なのか
- 改善すると、経営にどう影響するのか
これを自社の言葉で整理できているかが、採択率を大きく左右します。この整理は、これまでの価格転嫁・交渉・法的整理と完全につながっています。
7. 補助金は「単発」で終わらせない
補助金を活用した会社と、うまく使えなかった会社の違いは明確です。
- 仕組みとして会社に残しているか
- 次の経営判断に活かしているか
補助金はゴールではありませんし、本質的な解決でもありません。あくまで経営を一時的に楽にするための一要素です。高熱をまずはなんとかするのに使う解熱剤のようなもので、健康でいるためには生活習慣を改めなければならないのと似ています。
8. 次回(最終回)予告:伴走者がいる経営へ
ここまでのシリーズでは、
- 価格転嫁
- 根拠資料
- 交渉
- 法律
- 補助金
と、利益を守るための手段を見てきました。最終回では、これらを場当たり的に終わらせず、
- 価格交渉をどう「定例化」するか
- 良い発注者とどう付き合うか
- 経営者の判断を誰が支えるのか
という視点でまとめます。経営者や役員などの経営層、管理職は孤独になりがちです。しかし、パートナー・相談相手がいるだけで、判断のスピードと精度は大きく変わります。
価格転嫁にも持続可能な経営に「パートナーシップ」の発想を!
価格交渉を“一度きり”で終わらせないために 1. ここまでの振り返り:問題は一つではなかった このシリーズでは、建設業の利益を守るために、 という流れでお伝えしてきました。ここまで読んでいただいた方なら、すでに気づかれて […]
投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。









