利益を削らず、生き残るための“現実的な話”

1. 「忙しいのに儲からない」会社が増えている理由

「仕事はある。人も何とか回している。でも、なぜかお金が残らない」

ここ数年、愛知県内の設備系建設業者建設業許可をもつ機械商社の方から、このような声を聞く機会が確実に増えています。売上は横ばい、あるいは微増。工事量も減っていない。それなのに、決算書を見ると利益が薄い、もしくはギリギリの黒字。原因は非常にシンプルです。

コストは上がっているのに、工事単価が追いついていない

これに尽きます。

  • 人件費(特に若手・中堅層)
  • 協力会社への外注費
  • 資材費・消耗品費
  • 社会保険料・法定福利費

これらは、どれも「努力で下げられるもの」ではありません。むしろ構造的に上がり続けるコストです。

2. 値上げをしない選択は、本当に「安全」なのか

多くの経営者・管理部門の方は、こう考えています。

  • 「発注者との関係が悪くなるのは避けたい」
  • 「今は仕事がある。波風を立てたくない」
  • 「うちは下請だから仕方ない」

気持ちはよく分かります。設備系の専門工事や機械器具設置工事は、一社だけで完結しない仕事が多く、発注者との関係性は非常に重要です。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。

値上げをしない=現状維持、ではありません

値上げをしないという選択は、

  • 利益を少し削る
    ではなく、
  • 毎年、確実に体力が削られる

という選択です。当然ですが会社の利益は、「売上 − コスト」で決まります。売上(単価)を据え置いたまま、コストだけが毎年2〜3%ずつ上がるとどうなるでしょうか。

3. 「放置した場合」の資金繰りシミュレーション

ここで、よくある中小の設備系工事会社をモデルに、ざっくりした数値で考えてみます。

  • 年商:3億円
  • 営業利益率:3%(約900万円)

この会社で、

  • 人件費・外注費・社会保険料等が毎年3%ずつ上昇
  • 受注単価は据え置き

という状態が続いた場合。

1年目

  • 利益:約900万円 → 約600万円

2年目

  • 利益:約300万円

3年目

  • ほぼ利益ゼロ

しかもこれは、

  • 大きな事故なし
  • 景気悪化なし
  • 売上減少なし

という、かなり“楽観的”な前提です。実際には、

  • 急な設備投資
  • 人材流出による採用コスト増
  • 取引先の支払条件悪化

などが重なり、一気に資金繰りが厳しくなるケースも珍しくありません。

4. 法制度は、すでに「価格転嫁前提」に動いている

ここで重要なのは、「価格転嫁をしないのが美徳」という時代は、すでに制度的に終わりつつあるという点です。

建設業法・取適法の考え方の変化

近年の法改正・行政指導では、一貫して

  • 不当な指値の是正
  • 労務費を考慮しない単価設定の問題視
  • 下請事業者に過度な負担を押し付ける取引への監視強化

が進んでいます。つまり、

「協力会社が苦しくなる前提の価格設定」は NG

という方向性が、国のスタンスとして明確になっています。にもかかわらず、

  • 元請が気を遣ってくれるだろう
  • 何も言わなくても理解してもらえるだろう

と“待ちの姿勢”でいると、その負担は黙って自社が被る構図になります。

5. 価格転嫁は「交渉力」の問題ではない

ここで勘違いされがちなのが、

「価格交渉=交渉が上手いかどうか」

という考えです。実際にはそうではありません。多くの会社が価格を上げられない最大の理由は、

  • 根拠が整理されていない
  • 自社の適正価格を把握していない
  • 説明資料がない

この3点に集約されます。

つまり、

言えないのではなく、準備していないだけ

というケースが非常に多いのです。

6. 最初の一歩は「自社の適正価格を知ること」

価格転嫁は、いきなり「値上げしてください」 と言う話ではありません。本当にやるべき最初の一歩は、

  • 自社の原価構造を整理する
  • 今の単価で、どこに無理が出ているのかを把握する
  • 説明できる形に落とし込む

この下準備です。これができて初めて、

  • 発注者に説明できる
  • 社内でも方針がブレなくなる
  • 無理な案件を見極められる

ようになります。

7. 次回予告:発注者を納得させる「根拠資料」の作り方

次回の記事では、「値上げを言うための資料」ではなく、「納得してもらうための資料」をテーマに、

  • 標準見積書の考え方
  • 法定福利費の見せ方
  • CCUSや社会保険対応コストの整理方法

を、実務目線で具体的に解説していきます。まずは、

「うちの今の単価って、本当に適正なんだろうか?」

そう感じていただけたなら、このシリーズは、きっとお役に立てるはずです。

投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。