
はじめに:年に一度の憂鬱な「工事経歴書」作成、今年も悩んでいませんか?
愛知県で建設業許可をお持ちの工務店・建設会社の皆様、毎年の「事業年度終了届(決算変更届)」の季節がやってきました。 中でも一番頭を悩ませるのが、「工事経歴書(様式第二号)」の作成ではないでしょうか。
- 「税抜なのか税込なのか、どっちだっけ?」
- 「千円未満は切り捨て?四捨五入?」
- 「配置技術者には誰の名前を書けばいいの?」
- 「愛知県の手引きを見ても、細かい書き方がわからない」
従業員数が10名~30名規模の会社様であれば、工事の件数もそれなりに多く、請求書をひっくり返してリストアップするだけでも膨大な時間がかかります。
この記事では、建設業許可専門の行政書士が、完成工事高の積上げから配置技術者の記載まで「愛知県の審査基準」に基づいた工事経歴書の書き方を、実務レベルで徹底的に解説します。 この記事を読めば、手戻りのない完璧な経歴書が作れるようになります。
この記事では経審を申請しない場合の記載要領を解説しています。経審を申請する場合は別の記載方法となります。
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1. 工事経歴書(様式第二号)とは?
書き方の前に、この書類の重要性を理解しておきましょう。 工事経歴書は、単に「どんな工事をしたか」を報告するだけの書類ではありません。
将来の公共工事(経審)参入を目指す会社には「基準」となる書類
もし御社が将来的に「経営事項審査(経審)」を受けて公共工事への入札を考えている場合、この工事経歴書の書き方一つで、会社の格付け(P点)が大きく変わる可能性があります。 「元請」か「下請」か、「配置技術者」が正しく書かれているか。これらはすべて審査対象です。
→経審を受ける際に過去の工事経歴としてチェックされるため、現時点で経審を受けない場合も将来に備えて適切に作成する必要があります。
許可更新や立入検査でもチェックされる
経審を受けない場合でも、5年後の許可更新時に「実態と合っているか」を確認されることがあります。適当に書いていると、最悪の場合、虚偽記載とみなされるリスクすらあります。 →ご自身での作成では不安、心配な場合は専門家に任せた方が精神衛生上は楽です。
2. 【準備編】書き始める前に用意すべき資料
いきなり様式に入力し始めると必ず混乱します。まずは以下の資料を手元に揃えてください。
- 直近の事業年度における工事施工金額(様式第三号)
- ※実は、経歴書(様式二号)を書く前に、先に「業種ごとの売上合計」がわかっている必要があります。
- 工事台帳 または 請求書控え(1年分)
- 工期、請負金額、注文者名がわかるもの。
- 契約書・注文書・注文請書
- 特に金額の大きい工事については、契約日や工期の正確な日付が必要です。
3. 【実践編】愛知県様式・工事経歴書の書き方
ここからは具体的な入力項目ごとに、愛知県特有のルールを交えて解説します。具体的な記入方法についてはリンク先の画像(記入例①~④)を参照してください。
(1)全体編
まずは工事経歴書作成にあたっての全体的な説明(①~④)です。

① 建設工事の種類
工事経歴書は、管・電気・内装など許可を受けている建設工事の種類(業種)ごとに作成します。例えば、管工事、電気工事、内装工事の3つの許可を受けている場合は3枚の工事経歴書を作成します。許可を受けている業種については報告年度に実績が無かった場合も作成しますがその場合は「該当工事なし」と記入して作成します(こちらの「記入例③」参照)。
許可がない業種の建設工事(当然税込500万円以下)を施工した場合は”その他”として工事経歴書を作成します(こちらの「記入例④」参照)。施行していない場合は“その他”の工事経歴書の作成は不要です。
基本的には記入例③、記入例④のように ”施工した場所(会社名や地名等)+施工した工事の名称” の形で記入するケースが多いです。
※保守点検や維持管理業務(例:樹木の剪定、部品交換、管の高圧洗浄等)、人工出し(常用)等の役務提供は工事に該当せず記入対象外のため誤解されるような記載をすると修正が必要になります。また、これらの業務は後述する建設業財務諸表では兼業事業として取り扱います。
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「ウチの業種の場合はどう書けばいいんだろう?」「変な工事名を書いて再提出とか勘弁してほしい・・・」とお悩みの事業者様はぜひダウンロードしてみてください。
② 「税込」と「税抜」のどちらを選ぶのか?(消費税の会計処理)
決算書の会計処理に合わせて該当する方に○をします。決算書の個別注記表に記載されているはずですが、不明な場合は決算書を作成してもらった会計事務所へお問い合わせください。
- 経審を受けない場合: 「税込」でも受理はされますが、決算書(損益計算書)の売上が「税抜」で計上されている場合、整合性を取るために「税抜」で統一するのが一般的です。
③ 記入する工事の単位
請け負った建設工事のひとつの契約(案件)ごとに「注文者~工期」までの項目を記入します。愛知県の場合は報告年度に完成した建設工事のみを記入します。
→報告年度に請負代金の請求をしたが、完成していない場合は「工事進行基準」の場合を除き対象外。中小規模の事業者様の場合で「工事進行基準」を採用しているケースはかなり少ないと思います。「工事進行基準」がどういうものかというのはこちらの記事で解説しています。
④ 記入する工事の件数
業種ごとの請負金額の額を大きい順番から足し算をして、報告年度の業種ごとの請負代金合計の60%を超えるまで、または10件までのどちらか少ない件数まで記載します。
【例】パターン1… 記入例①:管工事の報告年度の請負代金合計:50,000千円(=5,000万円)
- 上位5件の請負代金を足した金額:27,000千円 → 30,000千円(=50,000千円の60%)を超えないので件数不足
- 6件目に4,500千円の案件を追加 → 足し算の結果が31,500千円となり30,000千円を超えるので6件でOK
【例】パターン2… 記入例②:電気工事の報告年度の請負代金合計:60,000千円(=6,000万円)
- 上位10件の請負代金を足した金額:34,050千円 → 36,000千円(=60,000千円の60%)を超えないが10件あるのでOK
(2)項目編(左側)
次に、個別項目について解説します。まずは左側(⑤~⑩)を解説します。

⑤ 注文者
下請工事の場合、「注文者」の欄には自社が請けた工事の直接の注文者の会社名、商号または名称を記入します。
【例】
ABC不動産→DEF建設→自社 :注文者はDEF建設
ABC不動産→DEF建設→GHI工務店→自社 :注文者はGHI工務店
個人が発注者の場合は、個人の氏名が特定されないようにイニシャルのアルファベット等で表記します。
⑥ 元請又は下請の別
元請工事の場合は「元請」と、下請工事の場合は「下請」とどちらかを必ず記載。(空欄はダメ)
⑦ JVの別
共同企業体(Joint Venture:合弁事業)として行った場合に「JV」と記載。対象外の場合は空欄でOK。
(よっぽど大規模な工事を中堅以上のゼネコンが請け負う場合を除き対象になることはありません)
⑧ 工事名
契約書・注文書・請求書等から施工箇所(場所)、工事内容および業種がわかるように具体的に記載します。契約書・注文書・請求書等の文言どおりに記載する必要はありません。個人の住宅等の場合は個人の氏名が特定されないようにイニシャルのアルファベット等で表記します。
【例】「交通安全施設工事」だけでなく、区画線を引く作業の場合は“区画線設置工事”と追記して業種は「塗装工事」とします。防護柵の設置の場合は“防護柵設置工事”と追記して業種は「とび・土工・コンクリート工事」とします。
⑨ 工事現場のある都道府県および市区町村名
工事現場のある都道府県と市区町村名を書きます。町村の場合は郡の記載も必要です。
⑩「配置技術者」(ここが一番の危険ポイント!)
その工事現場に配置した「主任技術者」または「監理技術者」の氏名を記載します。それぞれの行の完成工事について配置技術者の氏名を記入。
一般建設業の場合は主任技術者しかいないので主任技術者のマスにレ点を記入、監理技術者の列は対象外なので必ず空欄になります。営業所技術者(旧称:専任技術者、いわゆる“専技”)と主任技術者の兼任については条件があるのでその条件を満たしているか注意します。
- 誰でもいいわけではない: 許可申請時に登録している「専任技術者(※)」または、要件を満たす社内の技術者でなければなりません。
- 現場代理人との違い: 現場代理人ではなく、法的に配置が義務付けられている技術者名を書きます。
- 資格なしの場合: 実務経験で要件を満たす技術者の場合は、その方の名前を書きます。
※:本来、専任技術者は現場での業務を想定していない技術者です。小規模の事業者様の場合は「主任技術者→専任技術者」で記入・提出して問題がないのは特例が適用されているからという点についてはしっかり理解しておきましょう(この点をよくわからないままにして主任技術者=専任技術者で届出をすると自ら建設業法違反していることを証明してしまうことになります)。
(3)項目編(右側)
続いて個別項目の後半、意外とただの転記じゃない場合があり間違って記入してしまいがちな右側(⑪~⑬)の説明です。

⑪ 請負代金の額
請負代金の額は消費税抜きの金額(免税事業者は税込の金額)を千円単位で記入。当初の金額から変更があった場合は、変更後の金額を記入します。
※「工事進行基準(前述)」を適用している場合は年度をまたぐ長期の工事について売上を分割していることがあるのでその場合は、報告年度の完成工事高をカッコ書きで記入します。
⑫ うち(・PC ・法面処理 ・鋼橋上部)
下記の表のAに該当する業種の建設工事業者が、Bの工事をした場合には、Cの略称に○をつけ、請負代金の額を記入します。→要するにAに該当する業種のみが対象です。
| A | B | C |
|---|---|---|
| 土木一式工事業 | プレストレストコンクリート構造物工事 | PC |
| とび・土工・コンクリート工事業 | 法面処理工事 | 法面処理 |
| 鋼構造物工事業 | 鋼橋上部工事 | 鋼橋上部 |
⑬ 工期
着工年月は契約・注文時の(予定)着工月ではなく、実際に工事に着手した年月を記入。完成年月も実際に引渡しをした年月を記入します。
(4)下部の合計金額欄
地味にミスが多い下部の合計欄についてです。
⑮ 合計欄
工事経歴書に記入した業種について報告年度の工事件数の合計、請負代金、うち元請工事の代金(あれば)の合計を記入します。
4. よくあるNG集!再提出(要修正)となるのはこんな書類
私が実際に相談を受けた中で、愛知県下の建設事務所の窓口で指摘されやすいミスをまとめました。
- 合計金額が合わない
- 工事経歴書の合計と、財務諸表(損益計算書)の完成工事高が合っていない。
- 原因:消費税の計算ミス、兼業事業(不動産売上など)が混ざっている、振込手数料を引いた額で書いているなど。
- 配置技術者が重複している(専任性の違反)
- 「重要な工事」には、技術者を専任(その現場につきっきり)で配置する必要があります。
- 同じ時期に複数の「重要な工事」に、同じ技術者の名前が書いてあると、建設業法違反を自ら証明することになってしまいます。
- 工期が事業年度から外れている
今期の決算届なのに、完成日が「来期」の日付になっている、または「前期」に完成した工事が含まれている。 - 「請負代金の額」は千円単位
愛知県の様式では、金額は「千円単位」で記載し、千円未満は「切り捨て」て記載するのが一般的です。(※四捨五入のケースもありますが、県の手引きや過去の提出控えに合わせてください)
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【ご参考】工事経歴書を「完成させるまで」の残り5ステップ
「書き方」のルールがわかったところで、ここから実際に役所へ出す書類を「完成・提出」するまでのステップをおさらいしておきましょう。資料の出し入れの手間もあるので自社でやられる場合は、一日の予定をなるべく空けて集中してその日に終わらせてしまうことをお勧めします。(2日間以上は必要な方が多いと思いますが…)
- ①1年分の取引関連資料からの「仕分け・抽出」
- まずは、前期1年分の工事台帳、請求書や注文書をすべて机に広げてください。その中から「元請工事」「下請工事」「金額が大きい順」にピックアップし、さらに工事件名から「電気工事」「管工事」など、建設業法上の正しい工種に1件ずつ振り分けてください。

- ②決算書の「建設業会計」への組み替え
- 税理士さんが作った税務申告用の決算書を、そのまま建設事務所へ出すことはできません。「売上」を「完成工事高」と「兼業売上高」に分けたり、「仕掛品」を「未成工事支出金」に……といった、建設業特有の勘定科目にすべて書き換える必要があります。特に、売上原価や費用については不自然な数字にならないよう注意が必要です。勘定科目の変換についてはこちらの記事に詳細をまとめています。
【愛知県版】建設業許可(事業年度終了届)「財務諸表(決算書)」の科目変換ガイド
https://kensetsu.fu-mtm.com/syuuryou-kamoku-howto/

- ③「納税証明書」の取得
- 書類一式に添付する「県税の納税証明書」を取りに行く必要があります。原則、平日の日中に県税事務所へ足を運ばなければなりません。ネット申請もできますが、手元に届くまで4日程度かかるため、期限ギリギリの場合は「直接行く」しかありません。※「委任状」もお忘れなく!

- ④事業報告書の作成と「最終チェック」
- 最後に、提出する年度の経営状況の概要を表や文章でまとめた「事業報告書」を作成し、全書類の整合性をチェックします。「経歴書の合計金額」と「決算書の完成工事高」、「建設業決算書」と「事業報告書の数字」が一致しているか? 住所や代表者名に間違いはないか?細かい点まで確認が必要です。

- ⑤行政窓口への「提出・修正対応」
- 書類ができたら、正本1部、副本(コピー)1部と提出票、提出書類一覧表をまとめて管轄の建設事務所に提出します。修正がある場合は、書類の差し替え対応が必要になります。不備がひどい場合は一旦差し戻しされることもあります。

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投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。










