
「税務署に出した決算書」そのままでは受理されません!
「税理士さんが作ってくれた決算書があるから、その数字を書き写して出せばいいんでしょ?」もしそう思われている事業者様もいらっしゃるのではないでしょうか。実はそれは大きな間違いです。
毎年提出する「事業年度終了届(決算変更届)」における決算書(以降、このパートでは「建設業決算書」とします)は、建設業法独自の勘定科目に書き換えなければならないものがあります。例えば、
- 建設工事に関する代金の後払いは「売掛金」ではなく「完成工事未収入金」にする。
- 建設途中の工事がある場合「仕掛品」ではなく「未成工事支出金」にする。
- 「兼業事業(不動産や建材販売など)」がある場合は、売上も原価も分けなければならない。
この作業は、単なる言葉の置き換えではありません。会社の「稼ぎの状況と健康状態」を正しく評価するための重要なプロセスです。本パートでは会計資格(日商簿記検定1級・建設業経理士2級)を持つ行政書士が愛知県の審査基準をクリアするための「科目変換(読み替え)」のポイントを徹底解説します。
1. なぜ「書き換え」が必要なのか?
税務申告用の決算書(この記事では以降「税務用決算書」といいます)は「税金を正しく計算するため」のものですが、建設業決算書は「その会社が建設工事を請け負うだけの財産的基礎・信用があるか」つまりお金を稼げるか、いくら持っているかを見るためのものです。
そのため、「工事に関わるお金」と「それ以外のお金」を明確に区別することが求められます。
特に、将来的に公共工事に参入するために経審(経営事項審査)を受ける場合、この建設業決算書の数値がそのまま点数(Y点・X2点)に直結するため、より慎重に行う必要があります。
2. 建設業決算書の作成方法
建設業決算書とは具体的には以下の書類一式のことをいいます。[ ] 内の番号は、愛知県の指定書式の右下に書かれている番号です。
・貸借対照表(BS) … [1] [2] [3]
・損益計算書(PL) … [4] [5]
・完成工事原価報告書 … [5]
・株主資本等変動計算書 … [6]
・注記表 … [7] [8]
主な留意点
- 千円単位で作成します。端数の処理は原則切り捨てですが、「工事経歴書」「直前3年の各事業年度における工事施工金額」に記載した数字との不一致が起こらないように注意が必要です。特に、エクセルで作成していると小数点以下の数字が非表示で合計数値がズレることが多々あります。
- 建設工事と兼業事業(部品や機器等の物品売買、不動産賃貸業、役務提供等)に関する科目は分けて作成します(主な振分けは下表参照、それぞれの科目の意味等は後述)。建設工事に関連する科目は、建設業法での科目名を使用します。また、建設工事のための費用(工事原価)と販売費及び一般管理費は適切に振り分けします。

- 上記2の振り分けをした結果の金額が、資産の部の合計または負債及び純資産の合計額の5%以内の場合はそれぞれの区分の「その他」に含めて、まとめることができます。5%を超えた場合は個別に勘定科目を設定して表示する必要があります。下の例の貸借対照表では100万円(2,000万円×5%)を超えた場合は個別に表示しなければなりません。

3. 貸借対照表(B/S)の変換ポイント
まずは貸借対照表(資産・負債・純資産)の代表的な変換例を見ていきましょう。お手元の税務用決算書を見ながら確認してみてください。
① 流動資産の変換
最も間違えやすいのがここです。
| 税務申告書の科目 | 建設業様式(様式第15号)への変換 | 注意点 |
| 売掛金 | 完成工事未収入金 | 工事代金の未回収分はこれ。兼業(物品販売など)の売掛金は「売掛金」のままでOK。 |
| 受取手形 | 受取手形 | 工事代金の手形のみ。 |
| 仕掛品・在庫 | 未成工事支出金 | まだ完成していない工事にかかった費用。 |
| 原材料・貯蔵品 | 材料貯蔵品 | 未使用の資材など。 |
| 前渡金 | 立替金 など | 工事に関係ないものは流動資産の「その他」等へ。 |
② 流動負債の変換
お金を払う側の科目も、建設業独特の言葉になります。
| 税務申告書の科目 | 建設業様式(様式第15号)への変換 | 注意点 |
| 買掛金 | 工事未払金 | 材料屋さんや外注先への未払分はこれ。 |
| 前受金 | 未成工事受入金 | 工事着手前にお客様から頂いた着手金など。 |
具体的な作成時の注意点
次に、具体的な科目ごとの注意点です。”I-1” ”I-2”などの表記は愛知県の建設業決算書の書式で使われているものと同じです。建設業決算書の貸借対照表(B/S)書式についてはこちらでご確認ください。
I-1:現金預金
税務用決算書の「現金預金」や「現金及び預金」にある金額を転記しますが、当座預金のマイナス(当座借越)がある場合は、その金額を短期借入金に振替える等の調整をする必要があります。
I-2:受取手形
電子記録債権(いわゆる“でんさい”)については受取手形に含めます。手形割引や裏書譲渡をしている場合は、流動負債の項目との金額調整および注記表への記載が必要となります。
I-3:完成工事未収入金
建設工事に関する売掛金を振分けします。兼業事業分は売掛金のままとしますが、金額が前述のとおり資産の部合計の5%以内の場合はその他にまとめることができます。5%を超える場合は、流動資産の部で0円の科目を取消線して“売掛金”項目として使用するか(例:有価証券が0円の場合「4 有価証券 売掛金………1,234,567 」と記入)、「8 前払費用」と「9 その他」の間に「8 売掛金」の項目を挿入して表示してください。項目を挿入した場合は全体のレイアウトのずれに注意して適宜修正して下さい。
I-5:未成工事支出金
税務用決算書に「仕掛品」がある場合、その内容に建設工事にかかわるものがあれば未成工事支出金に振分けます。
I-6:材料貯蔵品
税務用決算書に「棚卸資産」や「材料」等がある場合、その内訳に建設工事にかかわるものがあれば材料貯蔵品に振分けます。
II [1]-1:有形固定資産
有形固定資産については取得価格、減価償却累計額および期末簿価を記入します。
【例】
機械・運搬具 3,000,000 ↓期末簿価
減価償却累計額………△1,800,000 1,200,000
個別の減価償却累計額がわからない場合は法人税申告書の別表16を確認するか会計事務所にお問合せください。
I-1:支払手形
電子記録債権(いわゆる“でんさい”)については支払手形に含めます。
I-2:工事未払金
建設工事に関する買掛金を振分けします。兼業事業分は買掛金のままとします。
4. 損益計算書(P/L)の変換ポイント
次は損益計算書です。ここでは「建設業」と「それ以外(兼業)」を分ける作業がメインになります。
① 売上高の分離
- 完成工事高: 建設工事の請負による売上。
- 兼業事業売上高: 不動産販売、資材販売、除雪業務(委託契約の場合)などの売上。
※重要:
ここで計上する「完成工事高」は、別途作成した「工事経歴書(様式第2号)」の合計額と1円単位(実際に記載するのは千円単位)で完全に一致していなければなりません。
② 原価の分解(完成工事原価報告書)
税務申告書では「当期製造原価」としてまとまっているものを、建設業様式では以下の4つに分類して記載する必要があります。
- 材料費: 工事のために仕入れた材料代。
- 労務費: 自社の現場作業員に支払った賃金(※事務員や役員報酬は入りません)。
- 外注費: 下請業者に支払った工事代金。
- 経費: 現場の水道光熱費、現場消耗品、機械のリース代、法定福利費など。
具体的な作成時の注意点
次に、具体的な科目ごとの注意点です。”I” ”II”などの表記は愛知県の建設業決算書の書式で使われているものと同じです。建設業決算書の損益計算書(P/L)と完成工事原価報告書書式についてはこちらでご確認ください。
損益計算書(P/L)作成時の主な注意点
I:売上高
売上高を振分けします。建設工事分は「完成工事高」へ、兼業事業分は「兼業事業売上高」とします。
II:売上原価
売上原価を振分けします。建設工事分は「完成工事原価」へ、兼業事業分は「兼業事業売上原価」とします。完成工事原価は損益計算書の2ページ目(右下に[5]とあるページ)の下部で計算した数字になります。
III:販売費及び一般管理費
税務用決算書の販売費及び一般管理費の科目別明細表をもとに作成しますが、工事のためにかかったことが明らかな費用については振分けし、その金額を完成工事原価報告書の「II 労務費」「III 外注費」「IV 経費」のいずれかの項目に記入します(例:工事のためにしか使わない車両の減価償却費や車両費、専ら工事のみに従事する社員の労務関連費、外注業者へ支払った外注費等)。
なお、税務用決算書と建設業財務諸表の科目名が一致しない場合は下記のように対応することが多いです。
- 消耗品費 → 事務用品費
- 修繕費 → 修繕維持費
- 水道光熱費 → 動力用水光熱費
- 旅費交通費 → 通信交通費
- 通信費 → 通信交通費
- 賃借料 → 地代家賃
完成工事原価報告書作成時の主な注意点
I:材料費
報告年度に工事のために使用した材料費の金額です。基本的には以下のような計算で出てくる金額です。
報告年度前年の貸借対照表上の材料貯蔵品の金額
+ 報告年度に購入した材料費の金額
- 報告年度の貸借対照表上の材料貯蔵品の金額
= 報告年度の完成工事原価報告書の材料費の金額
【おまけ】注記表作成時の主な注意点
株式譲渡制限会社(※)については以下の項目は記載不要です。記載が必要な事項について該当事項が無い場合においては、「該当なし」と記載します。
※:登記簿や定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会(取締役会)の承認を受けなければならない。」といった記載のある会社のことをいいます。
・1 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
・4-2 会計上の見積り
・5 会計上の見積りの変更
・7 貸借対照表関係
・8 損益計算書関係
・10 税効果会計
・11 リースにより使用する固定資産
・12 金融商品関係
・13 賃貸等不動産関係
・14 関連当事者との取引
・15 一株当たり情報
・16 重要な後発事象
・17 連結配当規制適用の有無
・17-2 収益認識関係
4. 愛知県様式の「単位」ルール
愛知県の手引きでは、原則として「千円単位(千円未満切り捨て)」での記載が求められます。(※自社の過去の提出書類と整合性を取ってください)しかし、元々の決算書は「1円単位」で作られています。
これを千円単位に直していくと、必ずどこかで「(足し算をした結果)端数のズレ」が生じます(特にエクセルを使って自動集計している場合)。例えば四捨五入で千円単位にしていると
| 1円単位 | 千円単位 | |
|---|---|---|
| ① | 123,456,789円 | 123,457千円 |
| ② | 901,234,567円 | 901,235千円 |
| ①+② | 1,024,691,356円 | 上の2つの足し算は1,024,692千円 (左の四捨五入は1,024,691千円) |
のようになることがあります。その結果、以下のようなことが起こり得ます。
- 資産合計と負債・純資産合計が合わない。
- 利益の額が数千円ズレる。
この場合、適当な科目(「その他」など)で端数調整を行い、貸借が必ず一致するように調整しなければなりません。これが地味ですが時間のかかるパズルのような作業です。
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投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。







