
消防施設工事業の建設業許可を取得する際には、営業所ごとに**専任技術者(現在の法令上は「営業所技術者等」)**を配置する必要があります。ただ、消防施設工事業は少し特殊な業種です。というのも、
- 消防設備士の甲種・乙種のどちらでよいのか
- 実務経験は必要なのか
- 電気工事業や管工事業とどう関係するのか
- 建設業許可と消防法の関係をどう整理すればよいのか
といった点で、混乱しやすいからです。特に設備系の建設会社や機械商社では、「火災報知器の設置のように電気工事に近い仕事」もあれば、「スプリンクラーや消火配管のように管工事に近い仕事」もあります。
そのため、消防施設工事業は単に「消防の許可」と考えるだけでなく、電気工事との関係や管工事との関係も含めて整理することが重要です。
この記事では、消防施設工事業の専任技術者(営業所技術者)の要件について、工作機械商社出身の行政書士が資格・実務経験・他業種との関係・消防法上の注意点まで、実務の視点でわかりやすく解説します。
消防施設工事業とは?
消防施設工事業とは、火災の予防、警報、消火、避難のための設備を設置・改修する工事を行う業種です。代表的なものとしては、次のような工事があります。
- 自動火災報知設備
- 非常警報設備
- 誘導灯設備
- スプリンクラー設備
- 屋内消火栓設備
- 泡消火設備
- ガス消火設備
- 避難器具の設置工事 など
一見すると「消防設備の工事」というひとくくりに見えますが、実務上は内容がかなり異なります。例えば、
- 火災報知器・非常放送・誘導灯のような設備は、配線や信号系統が中心になるため、電気工事業との関連が出やすい分野です。
- 一方、スプリンクラー・消火栓・消火配管のような設備は、配管や流体設備が中心になるため、管工事業との関連が出やすい分野です。
つまり、消防施設工事業は大きく分けると、
- 火災報知器の設置など、電気工事業との関連がありうる業務
- スプリンクラーなど、管工事業との関連がありうる業務
にまたがる業種だといえます。この点は、専任技術者の考え方だけでなく、実際の受注体制や許可の取り方を考えるうえでも重要なポイントです。
専任技術者(営業所技術者)とは?
専任技術者とは、営業所ごとに常勤で配置しなければならない技術的責任者のことです。令和5年の法改正により、法令上は「営業所技術者等」という表現になっていますが、実務や一般的な説明では今でも「専任技術者」という言い方が広く使われています。専任技術者に求められるのは、ざっくりいえば、
- その営業所で請け負う工事についての技術的な裏付け
- 契約や受注判断における技術面の担保
- 適正な施工体制を整えるための技術管理機能
です。ここで大事なのは、専任技術者の制度は、「会社がその工事を業として請け負うための入口要件」だということです。
つまり、専任技術者は「会社として受注してよいか」を見る制度であり、「実際に誰が施工できるか」を直接決める制度ではありません。
この点が、消防施設工事業では特に重要です。なぜなら、建設業許可とは別に、消防法による規制がかかるからです。
消防施設工事業の専任技術者になる方法
消防施設工事業で専任技術者になる方法は、大きく分けて次の2つです。
- 資格による方法
- 実務経験による方法
ただし、消防施設工事業については、実務上は資格ルートの理解が特に重要です。
資格で専任技術者になる場合
一般建設業であれば、消防設備士は甲種・乙種を問わず原則OK
消防施設工事業の一般建設業許可においては、消防設備士の資格を持っていれば、専任技術者の要件を原則満たすと考えられます。
ここでよく誤解されるのが、「甲種でなければダメなのでは?」という点です。しかし、建設業許可上の専任技術者要件としては、消防設備士は甲種・乙種を問わず認められています。
また、一般建設業の専任技術者の整理としては、類(第1類〜第7類)を細かく限定せずに消防設備士資格として扱われる運用がされているため、少なくとも「甲でなければならない」「特定の類でなければならない」といった理解は、建設業許可の専任技術者要件としては必ずしも正確ではありません。
資格ルートなら実務経験は不要
さらに重要なのは、消防設備士の資格により専任技術者になる場合、実務経験の証明は不要だという点です。つまり、
- 実務経験証明書
- 契約書
- 注文書
- 請求書
- 工事経歴を裏付ける証憑
といったものは、資格ルートであれば原則不要です。これは、建設業許可制度が、
- 資格がある人については、その資格自体で技術力を担保する
- 資格がない人については、実務経験で技術力を担保する
という二本立てになっているからです。消防施設工事業は、消防設備士という関連性の高い資格があるため、資格ルートでの判断が比較的明確な業種といえます。
実務経験で専任技術者になる場合
もちろん、消防設備士などの資格がない場合には、実務経験で専任技術者要件を満たすことを検討することになります。
一般論としては、
- 指定学科(建築学、機械工学又は電気工学に関する学科)の大学卒業者であれば3年以上
- 指定学科(同上)の高校卒業者であれば5年以上
- それ以外であれば10年以上
といった実務経験年数が問題になります。ただし、消防施設工事業で実務経験ルートを使う場合には、どのような工事に従事していたかの整理が重要です。なぜなら、消防施設工事といっても、
- 火災報知設備・非常警報設備などの電気寄りの工事
- スプリンクラー・消火栓・消火配管などの管工事寄りの工事
に分かれやすく、工事内容の説明が曖昧だと、経験の内容が伝わりにくくなるからです。
また、資格ルートと異なり、実務経験ルートでは、工事内容を示す証明や資料の整理が必要になる場面があります(愛知県の場合は必須ではありませんが、手引き上は「提示を求める場合があります」と記載されています)。
そのため、消防施設工事業については、実務経験ルートよりも、消防設備士などの資格ルートのほうがわかりやすく、手続上も簡単といえます。
建設業許可と消防法は別の制度
ここがこの記事のいちばん重要なポイントです。
消防施設工事業では、建設業許可の要件と、実際の施工に適用される消防法上の要件を分けて考える必要があります。この関係は、電気工事業と非常によく似ています。例えば電気工事業では、
- 建設業許可があれば会社として受注できる可能性がある
- しかし実際の施工については、電気工事士法や電気工事業法の規制を受ける
という構造になっています。消防施設工事業も同じで、
- 建設業許可上は、消防設備士(乙種を含む)で専任技術者の要件を満たすことがある
- しかし実際の施工については、消防法上の資格区分や制限を受ける
という構造です。つまり、言い換えると、
建設業許可は「会社がその工事を請け負ってよいか」を見る制度
消防法は「実際に誰がその工事を施工してよいか」を見る制度
ということです。この2つを混同すると、「許可は取れたのに施工体制が足りない」ということが起こり得ます。
乙種消防設備士でも専任技術者になれるのに、なぜ注意が必要なのか?
「建設業許可上は乙種でもよいなら、それで十分では?」と感じる方もいるかもしれません。制度上、その理解自体は大きくは間違っていません。
ただ、注意が必要なのは、専任技術者になれることと、実際に工事を施工できることは別問題だという点です。
例えば、消防法上は、設備の種類や工事内容によって、実際に工事を行うために必要な資格区分が問題になることがあります。そのため、建設業許可上は、
- 乙種消防設備士でも専任技術者として扱える
- 実務経験証明も不要
という整理であっても、実際の現場では、
- 施工できる人員が足りない
- 外注前提の体制になっている
- 元請や発注者から別の資格や実績を求められる
といった問題が生じることがあります。ここは「許可が取れるかどうか」の話ではなく、受注後に無理のない施工体制を組めるかどうかの話です。
その意味で、消防施設工事業は、単に専任技術者要件だけを見て判断するのではなく、消防法上の施工体制まで含めて考えるべき業種だといえます。
電気工事業・管工事業との関係を考えることが重要
消防施設工事業は独立した1業種ですが、実務ではそれだけで完結しないことが少なくありません。先ほど触れたとおり、消防施設工事には大きく分けて、
- 自動火災報知設備や非常放送設備など、電気工事との関連が強い分野
- スプリンクラーや消火配管など、管工事との関連が強い分野
があります。そのため、実際の業務内容によっては、
- 消防施設工事業だけでよいのか
- 電気工事業の許可も検討すべきか
- 管工事業の許可も必要ではないか
という視点が重要になります。
たとえば、火災報知器の設置や更新を主に手がける会社であれば、消防施設工事業だけでなく、電気工事との関係も検討しなければならない場面があります。
逆に、スプリンクラーや消火配管の工事が多い会社であれば、消防施設工事業とあわせて管工事との関係を整理しておく必要があります。
つまり、消防施設工事業では、専任技術者の要件を確認するときも、「消防設備士を持っているから大丈夫」で終わらせず、
- どのような設備の工事を受けるのか
- 電気工事・管工事との境界はどうか
- 実際の施工体制はどうなっているか
という視点まで持っておくことが、実務上は非常に重要です。
よくある誤解
誤解1 甲種消防設備士でなければ専任技術者になれない
これは、建設業許可上の専任技術者要件としては必ずしも正確ではありません。一般建設業であれば、消防設備士は甲種・乙種を問わず認められるのが原則です。
誤解2 消防設備士で専任技術者になるには実務経験が必要
これも誤解です。資格ルートであれば実務経験は不要であり、実務経験証明書や証憑も通常は原則不要です。
誤解3 消防施設工事業の許可があれば、あとは何でも施工できる
これは危険な誤解です。建設業許可はあくまで会社として受注するための制度であり、実際の施工には消防法その他の関連法令による制約がかかります。
誤解4 消防施設工事業だけ考えればよい
実務ではそうとも限りません。火災報知器系は電気工事との関係、スプリンクラー系は管工事との関係が出やすく、会社の事業内容によっては、関連業種の許可も含めて検討したほうがよいことがあります。
まとめ
消防施設工事業の専任技術者(営業所技術者)の要件について、ポイントをまとめると次のとおりです。
- 一般建設業においては、消防設備士は甲種・乙種を問わず専任技術者要件として原則認められる
- 消防設備士の資格ルートであれば、実務経験証明や証憑の提出は不要
- 一方で、実際の施工には消防法上の規制がかかる
- この構造は、電気工事業における建設業許可と電気工事士法・電気工事業法の関係とよく似ている
- 消防施設工事業は、火災報知器などの電気工事寄りの領域と、スプリンクラーなどの管工事寄りの領域にまたがるため、他業種との関係整理が重要
つまり、消防施設工事業については、
「建設業許可が取れるか」だけでなく、「実際にどの工事を、どの体制で受けるのか」まで見て判断することが大切
だということです。
自社に消防施設工事業の許可が必要か迷っている方へ
消防施設工事業は、建設業許可の中でも比較的わかりにくい業種の一つです。その理由は、
- 専任技術者要件は消防設備士で比較的シンプルに見える一方で
- 実際の施工では消防法の制限を受け
- さらに工事内容によって電気工事・管工事との関係整理も必要になる
からです。特に、設備系の建設会社や機械商社では、
- 火災報知器の設置工事が多いのか
- スプリンクラーや消火配管が多いのか
- どこまでを自社施工し、どこからを協力会社に任せるのか
によって、必要な許可や社内体制の考え方が変わってきます。当事務所では、設備系企業・機械商社の管理部門での実務経験を踏まえて、
- 消防施設工事業の許可の要否判断
- 専任技術者の該当性確認
- 電気工事業・管工事業との整理
- 申請に向けた必要資料の確認
まで、実務に即した形でサポートしています。
「うちは消防施設工事業の許可が必要なのか」
「消防設備士はいるが、この体制で問題ないのか」
「電気工事や管工事も一緒に検討したほうがよいのか」
といった段階でも構いません。初回のご相談は無料ですので気になる点があれば、お気軽にお問合せください。
【免責事項】本記事は、「建設業法」をはじめとする関係法令について、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別具体的な事案への適用や、法的判断を行うものではありません。
実際の業務運用においては、事業内容、取引形態、現場の実態、所在地(都道府県)ごとの条例や運用、今後公布される政令・規則等により、求められる対応が異なる場合があります。本記事の内容を基に行動されたことにより生じた損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
具体的な対応については、専門家にご相談のうえ、貴社の実情に即した判断を行っていただくことをおすすめします。
投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。







