
建設業許可を取得している会社は、毎年の決算終了後に「決算報告の事業年度終了届(決算変更届)」を提出する必要があります。その際に作成することになるのが、
- 工事経歴書
- 建設業財務諸表
です。ところが、建設業の経理や決算では「工事進行基準」という、一般的な会社とは少し異なる考え方が出てきます。
「売上は請求書を発行した時じゃないの?」
「まだ工事が終わっていないのに売上になるの?」
「税理士に任せているからよく分からない」
という事業者様も少なくありません。特に工事経歴書や完成工事高を作成する際には、「工事進行基準とは何か」「自社は工事進行基準を採用しているのか」を理解していないと作業の手が止まってしまいます。
そこで今回は、会計資格を持つ行政書士が工事進行基準の考え方を、簿記や会計の知識が無くてもわかるように具体的な例も交えて解説します。

「工事進行基準」について用語と簡単な内容を知っておかないと事務作業が止まるので作ったのが本記事ですが、小規模の事業者様の場合はほぼ使っていないと思います(が、気になる事業者様は自己判断せず念のため顧問税理士の先生にご確認ください)。
そもそも工事進行基準とは?
簡単に言うと、「工事が完成する前でも、進んだ分だけ売上を計上する方法」です。例えば、あなたがアパート建築工事を請け負ったとします。
- 契約金額:1億2,000万円
- 工期:1年
- 着工(工事開始):2024年10月
- 完成:2025年9月
だとします。普通に考えると、
「工事が終わった時(2025年9月)に売上を計上するのでは?」
と思いますよね。しかし、それでは会社の実態が正しく表せない場合があります。そこで使われるのが工事進行基準です。
なぜ建設業だけ特別なルールが必要なのか?
例えばコンビニを考えてみましょう。コンビニはお客様が商品を買った瞬間に売上になります。
- おにぎりを販売した
- 代金を受け取った
これで取引は終わりです。でも建設工事は違います。例えば、
- 2024年10月着工(工事開始)
- 11月基礎工事
- 12月躯体工事
- 2025年2月屋根工事
=3月で決算到来=
- 4月内装工事
- 9月完成
というように長期間かかります。もし完成した時だけ売上を計上すると、完成前の決算期(2024年4月~2025年3月)では
- 売上0円
- なのにそれまでに多額の材料費や外注費が発生
という状態になります。実際には工事が半分以上進んでいるのに、2025年3月締めの決算書だけを見ると大赤字に見えてしまうことがあります(一方で、翌年度2026年3月は大幅な黒字に)。そこで、工事が完成し引き渡しが完了した時点ではなく、「どこまで工事が進んだか」に応じて売上を計上しようという考え方が生まれました。これが「工事進行基準」です。
工事完成基準との違い
建設業会計ではよく、
- 工事完成基準
- 工事進行基準
が比較されます。違いを簡単に整理すると次のようになります。
工事完成基準
工事が終わった時にまとめて売上計上
工事進行基準
工事の進捗に応じて売上計上、先ほどの例でいうと
- 契約金額:1億2,000万円
- 工期:1年(2024年10月~2025年9月)
の工事です。決算日が工事のちょうど中間地点の2025年3月の場合、
工事完成基準では、
- 売上0円
です。しかし工事進行基準では、仮に材料費や労務費が毎月ほぼ同じような金額がかかる場合には売上が6,000万円程度になる可能性があります。売上金額が大きく変わるため、決算書にも大きな影響があります。
工事進行基準の計算方法を具体例で解説
ここからは数字を使って説明します。
事例
アパート新築工事
- 契約金額:1億2,000万円
- 見込総工事原価:9,000万円 ←工事完成までにかかると思われる原価の総額
- 決算日までに発生した原価:4,500万円
だったとします。
まず「決算日までに発生した原価」と「見込総工事原価」を使って進捗率を計算します。
4,500万円÷9,000万円=50%
つまり、原価ベースで考えると工事は50%(半分)進んでいると判断します。次にこの進捗率に対応した売上を計算します。
1億2,000万円×50%=6,000万円
この場合、決算日時点では6,000万円の売上が計上されることになります。まだ工事は完成していませんが、半分完成したと考えて半分の売上を計上するわけです。
「まだ請求していないのに売上になる」のはなぜ?
ここで多くの事務担当者が疑問に感じます。
「まだ請求もしていない」
「お金も入っていない」
「なのに売上なの?」
確かに違和感があります。しかし会計の世界では、お金の入金ではなく、工事という仕事がどれだけ進んだかを重視します。例えば、
- 工事は50%完了
- 入金はまだ0円
という状態であっても、会社としてはすでに半分の仕事を終えていると考えます。そのため売上も半分計上するのです。
工事台帳が重要な理由
工事進行基準を採用すると、
各工事ごとに
- 材料費
- 外注費
- 労務費
- 経費
を把握する必要があります。そのため多くの建設会社では工事台帳を使用します。例えば、
A工事
- 材料費 300万円
- 外注費 500万円
- 労務費 150万円
- その他 50万円
合計1,000万円
というように記録します。工事台帳がしっかり整理されていないと、
- どの工事にいくら使ったのか
- 工事の進捗率はどれくらいか
が分からなくなります。結果として正しい建設業の売上高(完成工事高)や建設業財務諸表が作れなくなることがあります。
設備工事でも考え方は同じ
ここまで比較的イメージしやすいアパート建築を例にしましたが、設備系工事でも考え方は変わりません。
例えば、
- 工作機械据付工事
- 生産ライン移設工事
- 工場の配管工事
- 受変電設備工事
- 空調設備工事
などでも同様です。例えば、
契約金額3,000万円 / 工期6か月 / 総工事原価見込2,400万円 / 決算日時点の発生原価1,200万円
なら、
発生原価 1,200万円 ÷ 総工事原価見込 2,400万円 = 進捗率 50%
契約金額 3,000万円 × 進捗率 50% = 当期の売上高1,500万円
となります。機械器具設置工事や管工事、電気工事でも基本的な考え方は同じです。
よくある勘違い
請求書発行=売上だと思っている
建設業では必ずしもそうではありません。請求前でも売上計上する場合があります。
入金=売上だと思っている
前受金として先に入金されることもあります。入金されたからといって直ちに売上になるとは限りません。
工事ごとの原価管理をしていない
小規模な建設会社では珍しくありません。しかし工事進行基準を採用する場合には原価管理が非常に重要になります。
完成工事高と売上高の違い
建設業許可申請や決算報告(事業年度終了届・決算変更届)の建設業財務諸表で登場する「完成工事高」は、建設業独特の考え方が含まれます。法人税申告用の決算書と建設業財務諸表の違いを理解したうえで工事経歴書の数字の関係を理解しておくことが重要です。
決算変更届(事業年度終了届)との関係
建設業許可業者は毎年、
- 工事経歴書
- 直前3年の各事業年度における工事施工金額
- 建設業財務諸表
などを作成して提出します。これらの書類の基礎となるのが、
- 完成工事高
- 工事原価
- 工事ごとの実績
です。つまり、工事進行基準を理解することは単なる会計の勉強ではなく、建設業許可を維持するための決算報告(事業年度終了届・決算変更届の作成)にも関係する知識と言えます。
まとめ
「工事進行基準」という言葉を聞くと難しく感じるかもしれませんが、実際には中小建設会社の多くが税理士や会計ソフトに任せており、自社でどのように売上計上されているのか正確に把握していないケースも少なくありません。
特に決算報告の書類(事業年度終了届・決算変更届)の作成時には、工事経歴書や建設業財務諸表の作成方法で悩まれることがよくあります。
「結局、うちの会社の場合はどのように処理すればよいのか分からない」
「決算書の数字と工事経歴書の数字の関係がよく分からない」
という場合は、早めに行政書士や税理士へ相談することをおすすめします。
当事務所では、工作機械商社(建設業許可有)の管理部門で培った経験と会計知識を活かし、設備系建設会社や機械商社を中心に建設業許可の各種手続をサポートしております。工事経歴書や建設業財務諸表の作成でお困りの際はお気軽にご相談ください。
【免責事項】本記事は、「建設業法」をはじめとする関係法令について、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個別具体的な事案への適用や、法的判断を行うものではありません。実際の業務運用においては、事業内容、取引形態、現場の実態、所在地(都道府県)ごとの条例や運用、今後公布される政令・規則等により、求められる対応が異なる場合があります。
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投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。







