1.「あるある」トラブル事例

技術も価格も悪くないのに、「今回は見送ります」と言われた理由

「技術的には全く問題ない」
「金額も他社と遜色ない」

それでも、なぜか指名や発注先候補から外れる。元請・商社・エンジニアリング会社の立場であれば、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。

ある設備工事案件で、A社(中堅の元請)は長年の実績があり、現場対応・品質・スピードには定評がありました。ところが、大手メーカーの新工場案件において、最終的な発注先検討の段階で、こんな指摘が入ります。

「協力会社との契約書式が最新法令にアップデートされていない」
「責任分界や不具合対応の整理が弱い」
「コンプライアンス面でリスクが見えにくい」

A社としては、

「実務ではちゃんと回っている」
「問題が起きたら現場で調整してきた」

という感覚でした。しかし、発注者側(さらにその上の本社法務などの管理部門)はこう見ていました。

  • 下請や外注の管理が属人的
  • 契約ひな形が案件ごとにバラバラ
  • 追加工事・不具合対応の整理が“現場任せ”

結果として、「今回は別の会社で」という判断が下されます。さらに厄介なのは、理由がはっきり説明されないことです。

「総合的に判断しました」

この一言で終わる。つまり、評価の土俵に上がっているのかいないのかもわからない状態です。


2.法的に「なぜダメか?」

「自社はクリーン」でも足りない時代になった理由

ここ数年、発注者(大手・国や自治体側)の法務・監査の視点は明確に変わっています。

(1)リスクは「自社」ではなく「取引網」で見られる

建設業法、取適法(旧下請法)、フリーランス保護法の根底にある考え方は共通しています。

  • 自社が直接違反していなくても
  • 協力会社・下請の取引実務が不適切だと
  • 「管理責任」を問われる

特に元請は、
✅ 取引条件の明示
✅ 不当な変更指示・減額の防止
✅ 支払・是正対応の整合性

について、“自社だけ守っていればいい”とは見られません。

(2)契約書は「実務」ではなく「統制資料」として見られている

大手企業や公共事業の発注では、契約書は次の目的でチェックされます。

  • 現場をちゃんと管理できているか
  • トラブルを予防できる設計になっているか
  • 下請・外注との力関係が過度に歪んでいないか

つまり、契約書=ガバナンスの証拠です。ここが弱いと、「将来トラブルを起こしそうな会社」という評価になり、静かに外されるだけです。

(3)一度問題が出ると「指名停止」や「出入り禁止」になりかねない

コンプラ意識の低い下請を抱えた結果、

  • 支払トラブルが表面化
  • 行政・公取・監査で指摘
  • ブランド・信用に傷

という流れになると、

  • 指名停止
  • 発注見合わせ
  • グループ全体での取引停止

は、決してあり得ない話ではありません。「契約を軽視している会社」=「管理できない会社」という評価は、今や自然です。


3.実務的な「対策案」

契約ガバナンスを「攻めの営業」に変える方法

では、元請・発注者は何を整えるべきか。

ポイントは
👉 「自社を守る契約」から「選ばれる契約」へ
という視点です。

処方箋①:「自社ひな形」を持つこと自体が評価になる

大手・公共との取引に影響を与えるのは、

  • 契約書の中身以前に
  • ひな形が“整理されているか”

です。例えば、

  • 工事種別ごとにひな形がある
  • 追加工事・不具合対応の基本方針が書かれている
  • 契約不適合責任や責任分界が整理されている

これだけで、「少なくとも統制が効いている会社」という評価を得られます。

処方箋②:コンプラ意識の低い下請を“自然にふるい落とす”

契約書を整える最大の副次効果はここです。

  • 曖昧な口約束が通らない
  • 「とりあえず無償で」ができない
  • 書面・ルールが前提になる

結果として、

  • いい加減な業者は離れていく
  • きちんとした協力会社が残る

という健全な取引につながるフィルターができます。これは、

  • トラブル削減
  • 工程安定
  • 客先満足

すべてに効いてきます。

処方箋③:「契約を見せられる会社」になる

実は、大手や公共案件では、

「御社の標準契約書を見せてください」

と言われるケースがありえます。このとき、

  • その場しのぎで作った契約
  • 案件ごとにバラバラ
  • 明らかに古い書式

だと、一発で評価が落ちます。逆に、

  • 現行法令を踏まえた整理
  • 実務に即した条文
  • 発注者・元請としての思想が見える

契約書が出てくると、それ自体が営業資料になります。


4.まとめ

契約書式を整える会社が、「選ばれる会社」になる

これからの元請・発注者に求められるのは、

  • 安さ
  • スピード
  • 技術力

だけではありません。

安心して任せられるか
トラブルを予防できるか
協力会社まで含めて管理できているか

その判断材料となるのが、契約書と契約運用です。裏を返せば、契約ガバナンスを整えることは、

  • 指名獲得
  • 引き合い増加
  • 公共・大手案件への入口

につながる、攻めの施策でもあります。もし貴社で、

  • 契約ひな形が古いまま
  • 案件ごとに対応がバラバラ
  • 下請・外注管理に不安がある

そう感じているなら、一度「法務・発注者の視点」で自社の契約を点検してみてください。

当事務所では、主に設備系建設業の元請・発注者様向けに、

  • 契約書の作成・チェック
  • ひな形整理
  • ガバナンス視点での見直し

を行っています。

👉 初回の簡易相談は無料です。
👉 「自社ひな形を整えたい」という段階でも対応可能です。

契約を整えることは、“守り”ではなく“次の受注への準備”です。

投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。