「受注者保護」が強まる時代の再施工・取引先選定・責任設計

1.「あるある」トラブル事例

「100%施工業者が悪い」のに、発注者が損をする(工程・客先・回収)

設備据付や配管、電気、制御改造の案件で、いちばん厄介なのは「止まらない不具合」です。
機械は動く。検収も済んだ。しかし、特定条件で品質が落ちる、精度が出ない、夜勤帯だけ停止する。こういう“原因がはっきりしない不具合”は、客先にとっては「ラインの停止」につながる問題なので、発注者側でのとりあえずの対応が必須になります。

ある案件(守秘義務に配慮して記事化)では、ライン増設に伴う設備据付・配管・制御の一部を、メインの大手業者が多忙で対応できないとのことでこれまで取引がほとんどなかった小規模業者に外注しました。見積は安く、納期も短い。現場対応も特に問題はありませんでした。
この時の契約書は昔からのひな形で、契約不適合責任は「引渡し後1年」とだけ。性能基準や受入試験(FAT/SAT)の合否、使用条件の前提も、ほぼ未定義でした。

引渡し後、稼働2か月目から不具合が発生します。原因は業者側の施工不良で、技術的にも証拠は揃っている。つまり落ち度は100%相手。ここまでは「契約不適合で直せ」で済むはずでした。

ところが、問題が潜んでいました。

  • 相手業者が資金的に厳しく、応援要員を出せない
  • 追加の部材手配もできず、修正対応工事の段取りが立たない
  • 発注者自身が代替業者を手配すると、費用が跳ね上がる
  • 客先への説明・工程遅延の責任は、元請(発注者)である自社が負う

社内では当然「損害賠償請求だ」「再施工費は相手に出させろ」となるのですが、現場は待ってくれません。ラインを止め続ければ、客先は容赦なく追加要求を出してきます。さらに深刻な場合は、営業損失として億円単位の損害賠償請求の話になりかねません

さらに発注者側には、もう一つ厄介な縛りがありました。

「無償でやり直せ」と強く言い切ってしまうと、取引実務(条件明示・支払期日・不当行為)との整合が崩れ、“運用がまずい”形になりやすい

近年は、取引条件の明示や支払の規律、不当な変更指示等の禁止が明確化され、契約・運用の不備がそのままコンプラ事故としてとりあげられやすい環境です。

実際、フリーランス(一人親方等)との取引では、業務内容・報酬・支払期日等を明示し、受領・役務提供から60日以内のできるだけ早い支払期日設定、さらに不当な変更指示等の禁止が求められる旨が周知されています。

また、取適法(旧下請法の改正)では、協議を経ずに代金を一方的に決めることが原則禁止、手形払いの原則禁止、従業員数基準の導入など、発注側の実務負担が増える方向で制度が動いています。

結局この案件は、発注者側が“代替施工”を先に入れてラインを復旧させ、施工業者には後から請求する方針に転換しました。

しかし――施工業者に支払能力がなく、立替した代金の回収は想定どおり進みません。

「法的には問題ないはずの責任追及」でも、現金を回収できない。

発注者側の事務管理部門として一番嫌な結末です。


2.法的に「なぜダメか?」

契約不適合は「責任追及の根拠」から「発注者の地雷」にもなり得る

契約不適合責任(民法改正後の整理)は、ざっくり言えば「契約内容に適合しているか」が基準です。ここで発注者が見落としがちなのは、次の3点です。

(1)“契約内容”が曖昧だと、争点が無限に増える

設備に関する工事は、目的が「稼働」「性能の維持・向上」「品質」「歩留まり」など抽象的になりがちです。性能基準・前提条件・受入試験の合否・合格時点(検収)の決め方が甘いと、後から

  • それは不適合なのかか?
  • 使用条件の問題なのか?
  • 追加仕様ではないのか?

と延々と議論になりかねません。つまり、発注者が客先へ説明すべき“基準”が契約から導けない状態になります。

(2)“やり直し”は万能ではない(取引先チェックのルール整備が必要)

発注者としては実施工業者へ「不具合だから無償でやり直せ」と言いたいところですが、取引の現場では

  • 何を直すのか(業務内容)
  • どこまでが当初契約の範囲か
  • 追加の指示変更・追加作業になっていないか

が曖昧で施工業者の納得を得られないまま“無償のやり直し”を強要すると、不当な変更指示・対価不払いとなり今後の火種になります。フリーランスとの取引に関する周知資料でも、取引条件の明示(業務内容、報酬額、支払期日等)や、報酬の支払期日(受領・役務提供から60日以内のできるだけ早い日)、不当行為の禁止(不当な変更指示等)が求められる旨が示されています。

さらに下請法の改正の流れで新たに制定された取適法では、発注側に「協議を経ずに代金を一方的に決定することの原則禁止」「手形払いの原則禁止」「従業員数基準の導入」など、取引管理の更なる厳格化を求めています。
つまり、発注者に“勝てる正義”があったとしても、やり方を誤ると別のコンプラ事故を起こす可能性があります。

(3)最大の落とし穴:「相手が払えない」問題は法的に解決しない

ここが発注者側に特有の忘れがちな点です。契約不適合で損害賠償や代替施工費を請求できる“理屈”があっても、相手に資力がなければ現実は回収できません。一方でこのとき発注者は、施工の依頼主である顧客に対して、

  • 納期・品質・停止損害の対策
  • 自社工程(追加コスト・人員投入)
  • 代替施工の手配

を先に実施せざるを得ません。

結論:契約不適合責任の規定は、発注者にとって「回収手段の理屈」ではあるもののそもそも事前の「予防設計」と「相手選び」が重要です。


3.実務的な「対応策」

発注者が“行き詰まらない”ための設計:条文・運用・取引先審査を一体で

ここからが発注者向けの本題です。ポイントは3つの層で考えます。
①契約(文言) ②運用(手順) ③取引先審査(そもそも)

対応策①:不適合の定義を「性能」ではなく「検収基準+前提条件」に落とす

発注者が客先に説明できるよう、契約書または別紙の業務仕様書で次をセット化します。

  • 受入検査の項目・合否基準(数値、許容差、測定条件)
  • 前提条件(電源、温湿度、材料特性、運転モード、稼働率、保守条件)
  • 検収の定義(どの書面・どの時点で合格とするか)
  • “調整”と“修補”の切り分け(立会い回数、時間上限、範囲)

これをやらないと、発注者は「直せ」の根拠を客先にも社内にも説明できず、結果として場当たり対応になってしまいます。

対応策②:「やり直し」を“契約不適合の補修”と“追加変更”に二分する(取適法時代の必須)

“やり直し”が問題化するのは、そもそもの契約に準拠しない不適合なのか、仕様追加なのか、境界が曖昧だからです。そこで条文上、最低限これだけは切り分けます。

  • 補修(無償):合否基準を満たさない、施工不良等、契約内容に不適合
  • 追加変更(有償):客先条件の変動、仕様追加、前提条件外での調整

そして運用手順として、

  • これは修補か追加変更かを決める社内の権限窓口の設置
  • 書面(メールでも可)での指示・承認
  • 追加変更なら見積・発注書の再交付

を定めましょう。取引条件の明示や不当行為の禁止が求められる環境下では、業務内容・報酬・支払期日等を明示し、60日以内の支払期日設定等が求められる旨が周知されています。発注者側の営業や現場担当者が“感覚”で無償作業を広げるほど、別のリスクが増えます。

対応策③:取引先の与信審査=賠償資力対策(“無い袖は振れない”を潰す)

ここが今回の最重要ポイントです。契約不適合責任を本当に機能させたいなら、条文より先に「相手が履行できる会社か」を見る必要があります。発注者として最低限、以下の観点で審査をすることをお勧めします。

  • 技術体制(常時対応できる要員・協力会社網)
  • 与信(急な是正工事の部材・人員を回せる資金余力)
  • 保険(請負賠償・生産物賠償・機械保険等、案件に合うか)
  • 過去実績(同類設備・同条件稼働の経験)
  • 下位再委託の管理(丸投げ化していないか)

さらに取適法の改正は、資本金だけでなく従業員数基準の導入等により、発注側が取引先情報を継続的に把握・管理する必要性が高まる旨が指摘されています。つまり、発注者側の“取引先管理”は今後ますます逃げられません。


4.まとめ:発注者は「行き詰らない仕組み」作りこそが重要

設備工事の契約不適合は、受注者の責任追及の問題に見えます。しかし発注者にとって本当に怖いのは、「理屈は正しいはずなのに、工程も客先も回収も全部失う」ことです。

その原因はたいてい、

  • 契約内容(合否基準・前提条件)の詰めが甘い
  • やり直しの境界が曖昧で、運用がコンプラ事故化する
  • そもそも相手の資力・体制が弱く、履行・回収ができない

という“発注者側の事前の設計不備”にある場合が多いです。

取引条件の明示や支払期日、さらに不当な変更指示等の禁止が求められる旨は周知されており、取適法改正でも発注側の実務対応が重くなる方向です。だからこそ、契約不適合に備える対策は「条文の精緻さ」だけではなく「定義・運用・相手選び」です。

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当事務所では、工作機械商社出身の行政書士が設備系取引の実務感覚を踏まえ、発注者側が安心できる契約設計(作成・チェック)から与信管理体制の構築をご支援しています。初回の簡易相談は無料ですのでお気軽にお問合せください。

必要があれば、条文単位のピンポイント確認からでも対応します。


投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。