「とりあえず直して」が、終わりの見えない責任に変わった瞬間

設備工事・工作機械の据付案件では、「動いてみないと分からない」という性質がつきものです。

私が工作機械商社の法務・リスク管理部門にいた頃、最もヒヤヒヤしたのが、引渡し後の“じわじわ来る不具合”でした。

ある案件では、工作機械を含む一連の生産設備を納入・据付し、試運転も問題なく完了。検収書も取り交わし、社内的には「無事に終わった案件」でした。ところが、引渡しから半年ほど経った頃。

  • 稼働時に微妙な振動が出る
  • 特定条件下で誤差が大きくなる
  • 想定より歩留まりが悪い

といった問い合わせが、断続的に入るようになります。

現場としては

「すぐ止まるほどじゃない」
「仕様上の限界では?」

という認識でしたが、客先の言葉はこうでした。

「これって仕様上の問題(≒契約不適合)ですよね?もちろん、無償で直してもらえますよね?」

契約書を見ると、「契約不適合責任の期間:引渡しから2年」とだけ書かれており、

  • どこまでが不適合の範囲なのか
  • 性能・精度・調整は含むのか
  • 消耗や使用条件の影響はどう扱うのか

が、一切定義されていませんでした。結果として、

  • 調整対応が何度も発生
  • エンジニアの対応工数が膨らむ
  • 追加費用は一切請求できない雰囲気

という状態が続き、結局当初の利益がほぼ無くなってしまう案件になりました。このときの教訓は明確です。

👉 「期間だけ書いた契約不適合責任」は、ほぼ無制限責任に近い


2.法的に「なぜダメか?」

民法改正後の「契約不適合責任」を、設備工事に当てはめると

2020年の民法改正で、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に一本化されました。ここで多くの実務がつまずいています。

契約不適合責任の本質

契約不適合責任は、 「契約の内容に適合しているか」が判断基準です。つまり、

  • 契約で何を約束したか
  • どのレベルを合格とするか

が曖昧だと、後から発注者側が広く主張できてしまう構造になります。特に設備や機械の工事では、

  • 性能
  • 精度
  • 稼働安定性
  • 生産性

といった要素があいまいになりがちで、「どこまでが契約内容か」を決めていない契約は、後々のトラブルの原因になります。

建設業法・取適法との関係

建設業法上も、

  • 工事内容
  • 責任範囲
  • 契約条件

を明確にすることが要求されています。にもかかわらず、

  • 「民法どおり」
  • 「一般的な責任」

といった表現だけで済ませると、不明確な内容として法的に不十分と判断されることになります。


3.現実的な「解決策」

設備工事に適した「契約不適合責任」の切り分け方

重要なのは、責任をゼロにすることではありません。責任のリスクをコントロールできる形にすることです。

解決策①:「不適合」の中身を言語化する

例えば、

  • 設計仕様書どおりか
  • 検収時点で確認可能な事項か
  • 継続使用による影響は除外するか

を、契約・仕様書で明示します。「性能」「品質」といった言葉を具体的な数値・条件・範囲に落とすことが第一歩です。

解決策②:期間を“一律”にしない

設備に関する工事では、

  • 構造・据付に関する部分
  • 消耗部品
  • 調整・キャリブレーション

を同じ期間で縛るのは、かなり危険です。例えば、

  • 据付・構造:引渡し後●年
  • 消耗品:対象外
  • 調整:検収まで

と分けるだけで、リスクは大きく減ります。

解決策③:「原因が誰にあるか」で整理する

契約不適合でも、

  • 使用環境
  • 運転条件
  • 客先側の改変

が原因の場合まで責任を負う必要はありません。この切り分けを契約と運用で一致させることが重要です。


4.まとめ

曖昧なままの「善意対応」が、一番高くつく

設備工事・工作機械の据付・設置等の不具合対応は、生産停止を恐れる現場感覚として「とりあえず直す」文化が根強くあります。しかし、

  • 契約に書いていない
  • 責任範囲を決めていない
  • 期間だけ決めて満足している

この状態は、元請・発注者にとって好ましくない状態です。契約不適合責任は、発生してから考えるものではありません。あるべき姿は契約時点で、線を引いておくものです。もし、

  • 瑕疵担保時代の感覚で条文を流用している
  • 「2年でいいよね」で止まっている
  • 設備工事特有の整理を記憶にある限り一度もしたことがない

そうであれば、契約書ひな形や標準約款を見直す価値は十分にあります。当事務所では、

  • 設備・機械工事の実務
  • 発注者側のリスク感覚
  • 民法・建設業法・取適法との整合性と抵触有無の確認

を踏まえた、契約書の作成・チェックを行っています。

👉 初回の簡易相談は無料です。
👉 条文単位での確認も対応可能です。

「善意でやってきた対応」が、いつの間にか会社の首を絞めていないか。そして、その対応はこれからも続いてしまうのではないか?その確認から、始めてみませんか。

投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。