スライド条項と不可抗力条文の使い方を誤ると、現場も信用も壊れます

1.「あるある」トラブル事例(約1,500文字)
――「契約だから仕方ない」が、現場を止めた瞬間
資材価格の高騰や納期遅延は、ここ数年で特別な事態ではなく、事前に想定しておくべき「前提条件」になりました。それでも現場では、次のようなやり取りが今も頻繁に起きています。
「材料が上がったのは分かるけど、契約は固定だから」
「納期が遅れた?それは御社の調達の問題でしょう」
これは、ある設備工事案件で実際に起きた話をリライトしたものです。
元請(発注者)側は、製造ラインの増設工事を受注。工期・金額ともに余裕はなく、下請の専門工事業者にはかなりタイトな条件で発注されていました。契約書には、
- 請負金額は固定
- 物価変動による増額は認めない
- 納期遅延は一切、受注者責任
と、強めの文言が並んでいました。ところが着工後、
- 鋼材価格が急騰
- 電装部品の納期が大幅に遅延
- 海外調達品が予定どおり入らない
という事態が重なります。下請業者は早い段階で
「このままでは赤字になる」
「スケジュールも物理的に厳しい」
と相談していましたが、元請側は一貫してこう回答してしまいます。
「契約でそうなっている以上、対応できない」
結果どうなったか。
- 現場の進捗が目に見えて悪化
- 技術者の投入が最低限に抑えられる
- 試運転対応が後回しになる
最終的には、工事が一時中断しました。
慌てた元請側が対応に乗り出しましたが、すでに下請は資金繰り的にも限界に近く、別案件の応援すら出せない状態でした。
この案件、
👉 「厳しい契約を守らせた側」が、最も大きな損失を被る
典型例だったと言えます。
2.法的に「なぜダメか?」(約1,500文字)
スライド条項と不可抗力を巡る誤解
この種のトラブル、「法律的には問題ない契約だから」と片付けられがちですが、実はそう単純ではありません。
建設業法の視点:価格転嫁と不当性
近年の建設業法の運用では、価格の一方的固定に対する視線は、明確に厳しくなっています。特に、
- 発注者(元請)の交渉拒否
- 協議の余地を完全に潰す条項
- 実質的に下請に全リスクを集中させる契約
は、「対等な契約関係とは言えない」と解釈されるリスクがあります。
スライド条項(物価変動条項)を入れないこと自体が即違法になるわけではありません。しかし、
- 急激な価格変動が予見困難な状況
- 下請の経営に重大な影響を与える水準
であれば、「協議すらできない契約設計」は問題視されやすくなります。
民法の視点:不可抗力と責任分担
納期遅延についても同様です。
民法上、不可抗力とは平たく言うと「当事者の責めに帰することができない事由」を指します。
- 天災
- 国際情勢の急変
- サプライチェーンの分断
といった事情を一切考慮せず、
「理由の如何を問わず、遅延はすべて受注者責任」
とする条文は、形式上有効でも、紛争時には争点になりやすいのが実務です。
契約書どおりに責任を押し付けた結果、工事自体が完成しなければ、発注者側も目的を達成できません。
3.実務的な「解決策」
リスクを“管理可能な形”に変える契約設計
ここで重要なのは、トラブルになることを恐れてとにかく「下請事業者を守る」「要求を全て無条件に受け入れる」ことを最優先にすることではありません。
👉 発注者自身の損失を最小化する設計です。
解決策①:スライド条項は「限定付き」で入れる
価格変動を無制限に認める必要はありません。例えば、
- 一定割合以上の価格変動があった場合のみ
- 特定資材に限定
- 事前協議・書面合意を条件
とすることで、予算管理と現場安定性を両立できます。「全部ダメ」より、「ルールを決めて認める」方が、結果的にコントロールしやすくなります。
解決策②:不可抗力の範囲を整理する
不可抗力条項では、
- 何が該当するのか
- どこまで免責されるのか
- 工期はどう扱うのか
をセットで定義します。特に、
- 工期延長は認めるが、損害賠償は免除
- 影響を最小化する協力義務を双方に課す
といった「交換条件」の提示は、現場との相性が良いです。
解決策③:「即協議」に事務管理部門が入れる運用を作る
異変が起きたら、
✅ これは誰が判断する案件か
✅ どの段階で協議に入るか
を事前に決めておく。結果的に、
- 現場の隠蔽
- 無理な強行
- 突然の工事停止
を防げます。
4.まとめ・導線
厳しい契約ほど、「運用できるか」で差が出る
資材高騰や納期遅延は、誰かの努力不足ではなく、もはや構造的リスクになっています。それを、
- 契約で完全に遮断できる
- 下請に押し付ければ安全
と考えるほど、発注者自身のリスクは膨らみます。重要なのは、
👉 起きる前提で、どう管理するかです。
もし、
- スライド条項が一切ない
- 不可抗力の定義が曖昧
- 結局、現場と営業の判断に委ねている
そうであれば、一度、自社の契約や標準約款のひな形を点検してみる価値があります。当事務所では、
- 元請・発注者側の立場
- 商社・設備工事での実務感覚
- 建設業法・民法の整理
を踏まえた、契約書の作成・チェックを行っています。
👉 初回の簡易相談は無料です。
👉 条文一部の確認だけでも対応しています。
「守っているつもりの契約」が、実は一番の地雷になっていないか。その確認から始めてみても、遅くはありません。
投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。







