工作機械商社での法務担当時に見た、曖昧な境界線の代償

1.「あるある」トラブル事例

――「そこまでやるとは聞いていない」と言われた現場で

機械器具設置工事や設備工事の現場では、契約書に一切書かれていない“グレーな作業”が、当たり前のように発生します。私が元請の立ち位置になることが多かった工作機械商社の法務・リスク管理部門にいた頃も、何度も「これは正直、ヤバかったな…」という場面を経験しました。

例えば、ある生産ラインの設備据付工事。契約上の工事内容は「○○設備の搬入・据付・試運転」とだけ記載されていました。ところが実際の現場では、

  • 搬入経路が事前想定と違い、すでに実施済みの床養生と仮設解体が必要に
  • 試運転中に不具合が見つかり、再調整が数日継続
  • 撤去した旧設備の一時保管・片付け対応
  • 客先立会いが増え、エンジニアの常駐日数が倍増

と、「やらないと現場が終わらない(≒発注者からはお金がもらえない)作業」が五月雨(さみだれ)式に発生しました。発注者側としては

「いや、それも含めての据付の請負契約でしょう?」

という感覚になりがちな一方、下請(専門業者)側は、

「それは契約外です。別途費用をください」

と、工事終盤になって請求書を受け取りました。

営業担当は現場を止めたくない。そして契約書には「一切の付随作業は請負金額に含む」と書かれている。

結果として、

  • 支払を巡って営業部内で揉める
  • 下請との関係が一気に悪化
  • 最終的には“泣き別れ”的に一部だけ支払う

という、誰も得をしない着地になりました。

この手のトラブル、決して珍しくありません。しかも原因はほぼ共通しています。つまり、

👉 「どこからが別途工事か」を、契約で明確にしていないこと

なのです。


2.法的に「なぜダメか?」

建設業法と民法から見た問題点

この種のトラブルは、単なる「契約の書き方が雑だった」という話ではありません。建設業法・民法の観点から見ても、発注者側にリスクが集中する構造になっています。

建設業法上の問題

建設業法では、下請契約について請負代金・工事内容を明確にする義務が課されています。工事内容が曖昧なまま、

  • 「一切の付随作業を含む」
  • 「現場で必要となる作業は受注者負担」

といった包括条項だけで処理すると、実質的に不当な対価不払いと評価される可能性があります。

特に、

  • 追加作業が発注者側の事情・指示変更に起因する場合
  • 当初想定していなかった作業が後から発生している場合

には、「それでも無償」という主張はかなり無理があります。

民法上の問題(請負契約)

民法上、請負契約は「仕事の完成」と「報酬」が対価関係にあります。平たく言えば、「仕事が終わったから、お金を払う(お金がもらえる)」ということです。

仕事の範囲自体が曖昧な場合、

  • どこまでが契約上の仕事か
  • 追加分は報酬請求できるのか

を巡って、争いになりやすい構造です。実際の裁判や紛争では、「契約書にどう書いてあるか」だけでなく、

  • 見積書
  • 打合せ履歴
  • 現場での指示内容

まで総合的に見られます。つまり、“書いていない”からと言って、発注者の自由裁量にはならないというのが第三者を交えた場合の解釈のされ方です。


3.実務的な「回避策」

こう書けば、防げた / こう運用すべきだった

では、どうすればよかったのか。ポイントはシンプルです。

回避策①:「含む」と「含まない」を明示する

例えば、

  • 養生
  • 仮設・解体
  • 試運転立会い
  • 残材処理
  • 再調整対応

について、

契約金額に含むもの
別途協議とするもの

を、条文または別紙で切り分けます。便利なので使いたくなりますが、「一切含む」という書き方を避けるだけで、後のトラブルは大きく減ります。

回避策②:「別途協議」のルールを決めておく

別途工事が発生した場合に、

  • 誰が
  • どのタイミングで
  • どう承認するか

を事前に決めます。たとえば、

「受注者は、追加工事の必要性が発生した場合は、直ちに発注者と協議するものとし、発注者の事前書面承認を得たものに限り、追加工事とする」

この一文があるだけで、現場判断による“後出し請求”も、発注者側(このケースでは営業部隊等)の“無限要求”も防げます。

回避策③:契約+運用をセットで考える

契約書だけ整えても、

  • 現場が口頭指示ばかり
  • 営業が「とりあえずやって」と言う

では意味がありません。

✅ 追加作業は必ず記録
✅ 写真・メール・簡単なメモでも残す

この「当たり前」を会社として仕組みにすることが重要です。組織への意識を浸透させる初期段階では社内研修を行うことも必要です。


4.まとめ・導線

「うちの会社は大丈夫」のうぬぼれが、一番危ない

追加費用トラブルは、下請との関係悪化・利益圧迫・社内疲弊を同時に引き起こします。しかも原因の多くは、

  • 契約時の詰めの甘さ
  • 昔からのひな形
  • 「現場で何とかなる」という判断

です。しかし、裏を返せば、

👉 契約の書き方と運用を少し変えるだけで、防げるリスクでもあります。

もし、

  • 自社の契約書が「一切含む」や自社が過度に有利な表現の条項だらけ
  • 別途工事の判断基準が担当者任せ
  • 第三者的な目線を入れての見直をしたことがない

そう感じたら、一度「コンプライアンス重視に変化」した時代目線で点検してみる価値はあります。

当事務所では、

  • 発注者・元請側の立場
  • 工作機械の販売会社(商社・代理店等)、設備工事特有での実務
  • 建設業法・取適法・フリーランス保護法・民法・商法の各法令

から、契約書の作成・チェックを行っています。

「全文チェックは大げさだけど、この条文だけ不安」そんなご相談でも問題ありません。

👉 初回の簡易相談は無料です。
👉 無理な営業は行っていません。

“現場が揉めて事務管理部門が火消しに忙殺される”その前に、少し立ち止まる。それだけで守れるものは、意外と多いものです。

投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。