第三者損害が発生したとき、誰が責任を取るのか

「うちの社員じゃない」が通用しない瞬間

足場の上から工具が落ちた。第三者(通行人)の頭部に当たり救急搬送。現場は一時中断、警察対応、近隣対応、SNSで拡散――。このとき、現場でよく聞く言葉があります。

「それ、うちの社員じゃないですよ」
「下請(孫請)がやったことなので…」

しかし、第三者損害の世界では、“誰が落としたか”が確定する前に、先に“誰が払うか”が動き出すのが現実です。そして多くの場合、最初に矢面に立たされるのは「元請」か「現場の表に出ている会社」です。

さらに怖いのは、事故の原因が下請であっても、契約書の書き方次第で、協力会社側に“無限に近い責任”が転がることがある点です。
保険でカバーできない負担が残り、会社の財務体力を一気に奪う・・・このタイプの事故は、利益を吹き飛ばすだけでなく、資金繰りに直撃します。

今回は、とび・土工・コンクリート工事で起きやすい第三者損害を題材に、「責任の流れ」と「求償(肩代わり後に取り返す)」の落とし穴、そして契約・保険・現場運用で先に予防線を引く方法を整理します。


事例紹介|足場の落下事故。「損害賠償は元請で処理するから」の罠

従業員30名のD社。とび・土工が主力で、足場・仮設・解体養生などを得意としています。ある改修工事で、D社は元請E社の一次下請として足場工事に入場しました。現場は駅近で歩行者が多く、近隣には店舗もあります。

ある夕方、作業終了間際に「ちょっとだけ追加の手直し」を頼まれ、若手が急いで対応。その際、足場上で使用していたハンマーが手元から滑り、防護棚の外へ落下。歩道を歩いていた第三者の肩に当たり、骨折。救急搬送となりました。

元請E社は、すぐに被害者対応・警察対応・近隣説明に走ります。D社にも連絡が来て、こう言われました。

「損害賠償はウチ(元請側)で一旦処理する。現場を止めたくないから、D社は作業再開を最優先して」

D社は「元請が処理してくれるなら…」と安心し、社内報告だけして通常運転に戻りました。
ところが1か月後、元請E社から届いたのは求償(肩代わり分の請求)でした。

  • 治療費・休業損害・慰謝料(示談金)
  • 事故対応の外注費(警備員増員、養生追加)
  • 店舗側の営業損失(休業補償の一部)
  • 元請が負担した弁護士費用(の一部)

合計、数百万円〜一千万円超(※事故規模により変動し得ます)。

D社は驚いて契約書を確認します。そこには、よくある“あの条文”が入っていました。

「本工事に関連して第三者に損害が生じた場合、原因のいかんを問わず受注者の責任と負担で処理する」
「元請が第三者に賠償した場合、受注者は元請に対し全額を補償する」

結果、D社は「事故を起こした事実」だけでなく、“元請が払った範囲”まで丸ごと背負う形になり、資金繰りに強い負荷がかかりました。


法的・実務的解説|第三者損害は「先に払う人」が決まっている

1)第三者は「内部の商流」など気にしない

第三者(被害を受けた方)から見れば、「現場の管理をしているのは誰か」「看板を出しているのは誰か」が入口です。
事故原因が下請・孫請にあっても、被害者は“取りやすい相手”に請求してきます。

そしてここで重要なのが、共同不法行為の考え方です。建設工事に関し、複数当事者の関与で第三者に損害が生じた場合、第三者は関係者の各自に対し損害全額の賠償を求め得る、という整理がされます。
(※個別事案の評価は事情によりますが、ここではまず「全額請求され得る」仕組みを理解することが重要です。)

つまり、第三者対応はしばしば

  • (外向き)全額賠償 →
  • (内向き)誰が最終負担するかを後で精算(求償)

という二段構造で動きます。

2)「求償できる」は“自動で戻る”ではない

現場では「うちのせいじゃないから求償できるでしょ」と言いがちです。しかし実務では、求償は次の3つで詰まりやすい。

(A)証拠が足りない
誰が、どの手順で、何を怠ったか。KY、作業手順書、指示系統、当日の写真・巡回記録。これらの証明力が弱いと、内部の負担割合で揉めます。

(B)契約で“負担が固定”されている
先ほどのように「原因のいかんを問わず受注者負担」と書かれていると、過失割合の議論以前に契約で負担が決まることがあります。

(C)相手に支払能力がない
最終的に負担すべき協力会社が小規模で、保険未加入・限度額不足だと、求償が絵に描いた餅になります。いわゆる「無い袖は振れない」状態です。

だから、第三者損害の怖さは「事故そのもの」だけでなく、お金が戻ってくるかわからない状況で先に払わされるところにあります。

3)混在作業は「元請の安全管理責任」が重くなる

とび・土工・コンクリート工事は、混在作業が多いのが特徴です。複数下請が同時に入り、動線も上下で交差します。

混在作業では、下請単独ではリスクアセスメントや低減措置の決定が難しい場合があり、元請が現場全体のリスクアセスメントを実施し、結果を各事業者へ共有する必要があるという整理がされています。
(ここでは化学物質の例ですが、「混在作業で全体統括が必要」という骨格は同じです。)

この「全体統括」が弱い現場ほど、事故後に

  • 連絡系統が不明
  • 指示が口頭だけ
  • 安全設備の責任分界が曖昧

となり、求償も泥沼化します。


解決策・予防策|契約・保険・現場運用で“予防線を引く”

第三者損害は、「気合い」では防げません。契約・保険・運用の3点セットで、先に予防線を引いていざ発生した際に備えておくことが重要です。

① 契約で押さえるべき3点(受注者側目線)

(1)第三者損害の“負担原則”を帰責に寄せる
危険なのは、「原因のいかんを問わず」「一切を負担する」型。ここは最低限、故意・過失(自社に落ち度があったかどうか)に寄せ、範囲を限定する方向が現実的です。

(2)元請が支払う前の“通知・協議”ルール
元請が独断で示談し、その後に全額請求、が一番危険です。事故発生時の

  • 速やかな通知
  • 示談・支払い前の協議
  • 証拠共有
  • 弁護士対応の主導(誰が窓口か)

を条文化しておくと、後で揉めにくくなります。

(3)求償条項を“使える形”にする
求償条項は、第三者に支払った場合に原因者へ補填を求める条項で、対象費用や通知・協力義務を設計するのがポイント、という整理があります。(※条文の文言は案件に合わせてアレンジが必要。)

② 保険は「入っているか」ではなく「使えるか」で確認

第三者賠償責任保険は多くの現場で有効なリスク軽減策で、契約で付保を義務付け、内容は別紙で定めるする運用が通例とされます。

ここでの落とし穴は、

  • 免責(対象外)が多い
  • 下請や作業員が被保険者に入っていない
  • “求償される費用”(弁護士費用・対応費)がカバー外
  • 限度額が現場規模に合っていない

という「入っているのに足りない」問題です。

③ 現場運用は「事故後に証明できる形」にする

事故が起きた後に強いのは、写真・記録・承認プロセスを残しておくことです。

  • 立入禁止・養生・通行規制の設置状況(写真)
  • KYの実施記録(誰が、何を、どう注意したか)
  • 作業手順書・指示書(口頭指示をメール化でも可)
  • 当日の巡回記録(元請・下請双方)

これらがあると、第三者対応だけでなく、内部精算(求償)の交渉も一気に進みます。


まとめ|事故は「現場の問題」だけではなく「契約と資金繰りの問題」につながる

とび・土工・コンクリート工事の第三者損害は、事故の瞬間・直後だけが会社の存続を左右するわけではありません。

  • 外向き:第三者への賠償はスピードが求められる
  • 内向き:誰が最終負担するかは契約と証拠で決まる

そして、契約書が甘いと、「元請が立て替えた分」を、受注側の事業者が無限に近い形で背負うことが起きます。

もし御社で、次のどれかに当てはまるなら要注意です。

  • 「第三者損害は一切受注者負担」型の条文が入っている
  • 事故時の“支払い前協議”がない
  • 保険の限度額・被保険者範囲を把握していない
  • KYや巡回記録が形式的で、事故後に説明できない
  • 混在作業の全体統括が曖昧

第三者損害は、1回で会社の信用と資金繰りを削るタイプのリスクです。だからこそ、事故が起きる前に、

  • 契約(条文)
  • 保険(効く設計)
  • 現場運用(証明できる記録)

をセットで改めて点検する価値があります。

まずは一度、契約書を開いてみてください。

・「第三者損害」「補償」「求償」といった言葉が、どの条文に、どんな書き方で入っているでしょうか。

事故は起きてから対策しても遅く、多くの場合「契約書にどう書いてあったか」で結論が決まります。気になる条文が1つでもあれば、それは“一度外部の専門家の目を入れる価値があるサイン”です。

投稿者プロフィール

古井 竜文(たつのり)
古井 竜文(たつのり)(株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。