
「その一文、誰のための条文ですか?」
「この内容で問題ありません。当社でお仕事してもらう業者さんは皆さんいつもこの契約書でやっていますから。」
元請企業からこう言われたとき、契約書をそのまま受け取っていませんか?
実は、日々契約書のチェックをしている現場では、建設工事請負契約書を開いた瞬間に “まず見る条文” が決まっています。
それは、
- 工事内容
- 金額
- 工期
……ではありません。真っ先に見るのは、「責任の押し付け方」と「逃げ道の有無」 です。
そして驚くほど多くの契約書に、「受注側の会社にだけリスクが集中する構造」が、ごく自然な日本語で巧妙に埋め込まれています。この記事では、
- ✅ 建設業者が最低限押さえるべき「10の必須条項」
- ✅ 一見もっともらしいが、絶対に認めてはいけないNG特約
を、元工作機械専門商社・法務担当の視点で解説します。
事例紹介|「合意した覚えのない責任」
電気工事を主力とするB社。従業員25名、公共工事・民間工事ともに実績のある堅実な会社です。
ある民間施設の改修工事で、B社は協力会社として参加しました。契約書は元請企業が用意したもので、分量はA4で6ページ。特に揉めるような点もなく、代表者は「いつものやつだな」と署名、捺印して返送しました。
ところが、工事完了から半年後・・・施設内で発生した漏電事故により、テナントが一時休業。元請企業から、B社に届いたのは次の通知でした。
・事故対応費用
・テナント休業補償
・元請の対外的信用低下に伴う損害合計 約1,800万円「契約書第○条に基づき、すべて受注者負担とする」
B社は当然反論します。
- 設計は元請
- 指示通り施工した
- 保守契約の範囲外
しかし、契約書には次の一文がありました。
「本工事に関連して発生した一切の損害について、その原因のいかんを問わず、受注者がその責任を負うものとする。」
結果として、B社は ほぼ全額を自己負担 せざるを得ませんでした。
法的・実務的解説|「なぜ勝てなかったのか」(約1,500字)
この事例は、特別な話ではありません。原因は、条文の“見えにくい罠” にあります。
危険な条文①
「一切の責任を負う」「原因のいかんを問わず」
この表現、実務では極めて危険です。
- 過失の有無を問わない
- 指示通り施工しても免責されない
- 第三者要因でも責任を負う
つまり、保険でもカバーしきれない責任 を負わされる可能性があります。契約書チェックの現場では、この一文があれば 必ず削除 or 修正対象 です。
危険な条文②
「発注者の判断をもって最終とする」
一見、中立に見えるこの言葉。しかし実態は、
- 検査合否
- 施行不良の有無
- 是正範囲
すべてを 相手の主観に委ねる 条文です。「話し合おう」が通用するのは、契約書に“話し合い余地”が残っている場合だけです。
危険な条文③
「協議の上決定する(ただし期限なし)」
この条文が一番多く、そして一番危険です。
- 追加工事
- 金額変更
- 工期延長
すべて「協議」ですが、協議が成立しなかった場合のルールがない。結果として、
「合意していない=認めない」
という発注者の論理が通ります。
建設業者が必ず押さえるべき「10の必須条項」(要点整理)
ここで、最低限チェックすべき条項を整理します。
- 工事範囲の明確化(図面・仕様書の位置づけ)
- 検査方法・合格基準
- 契約不適合責任の範囲と期間
- 追加工事・設計変更の手続き
- 工期延長が認められる条件
- 遅延損害金の上限
- 第三者損害の責任分界点
- 支払期限・支払条件の明確化
- 解除条項のバランス
- 紛争解決方法(裁判管轄等)
これらのうち、3つ以上が曖昧な契約書は “危険な契約” と考えてください。
解決策・予防策|「認めない」ための現実的対応
重要なのは、「全面拒否」ではありません。法務担当者としてアドバイスしていたのは、
- ✅ 削る
- ✅ 置き換える
- ✅ 条件を付ける
この3点です。
例:NG条文の修正イメージ
❌ 原文
「一切の損害を負担する」
✅ 修正案
「受注者の故意または重過失に起因する損害に限り負担する」
これだけで、責任範囲は 劇的に変わります。また、
- すべてを1回で直そうとしない
- 「今回はこの1点だけ」と絞る
これも実務では有効です。
まとめ・導線|「何となく違和感はなし」が一番危ない
建設工事契約書の怖さは、“難しい言葉”ではなく、“普通の日本語” にあります。
- 一切
- 原因のいかんを問わず
- 協議の上
この言葉に、どれだけのリスクが詰め込まれているか。契約書は、
- 知っている人ほど有利
- 知らない人はリスクにさらされる
そういう世界です。もし御社の契約書に、
- 読んでいない条文がある
- 意味はなんとなく理解している
- でも説明しろと言われるとよくわからない
そういう条文がいくつかあるのであれば、それは「専門家の視点」での確認が必要なサインです。
次回は、工事範囲の曖昧さが、なぜ追加工事トラブルを生むのかを、機械器具設置・電気・管工事の具体例で解説します。
投稿者プロフィール

- (株)MTM / MTM行政書士事務所 代表
- 自動車グループ系総合商社を親会社とする機械商社(建設業許可保有)でのリスク管理・法令遵守体制構築の経験を活かし、行政書士として建設業許可の手続から関連法令対応のご相談、契約書の作成・審査、経審対策まで対応しています。







